この投稿は、デザイン経営が中小企業やBtoBや製品を持たない事業者では導入しづらい理由ついて論じた部分の要約になります。
戦略デザイナー森田昌希のビジネスレビュー
「中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」の要約⑭になります。
●キーワードデザイン経営/無形サービス/イノベーション/カタチのデザイン/考えのデザイン/パーパス
●サービス事業者の特徴
プロダクトを持たない中小サービス事業者のデザイン経営にフォーカスしてみました。
まずサービス事業者の特徴について触れておきますと、顧客に提供する便益が無形であることです。
無形サービスが有形サービスと異なる点は、
・形がない(無形性:intangibility)
・生産と消費が同時(不可分性:inseparability)
・品質を標準化することが難しい(異質性:heterogeneity)
・保存ができない(消滅性:perishability)
・いつ?だれに?(変動性:heterogeneous)
といった特性がある言われています。
これらの特徴が考えのデザインを顧客接点に落とし込みづらい原因になっていると仮説を立てました。
IDEOのCEO であるTim Brown(2009)は自著でこのように言っています。
サービス業でイノベーションが遅れをとっている問題は、サービス業が扱うのは人間であるからだ。(中略)サービス業は極めて複雑な原理に基づいている
Tim Brown2009,『デザイン思考は世界を変える』,p.221.
デザイン経営とイノベーションについては先に論じておりますので以下をご覧ください。
●カタチのデザインと考えのデザイン
では、考えのデザインを落とし込む自社製品を持たない企業にとってのデザイン経営によるゴールとは?
それは複雑な原理で構成された限定的な顧客接点のなかで企業のパーパスや理念を伝えることで選ばれ続ける(競争優位)ことになります。
しかし、重要なこととして最終消費財にしか考えのデザインを落とし込めないことはないとも論じられています。
デザインはカタチを整えるだけのものではありません。企業が大切にしている価値、それを実現しようとする意志、そのような思いを具体的なカタチに落とし込み、それをあらゆる顧客接点において一貫したイメージとして伝えていくことで他の製品やサービスには代えられないブランドを作り上げることができます
これからのデザイン経営(永井,2021,p.22.)
よって、永井(2021)の論理を借りるのであれば、独自製品を持たない企業であっても考えのデザインを製品以外の顧客接点に落とし込むことでデザイン経営を実践することは可能であることになります。
●残された問題
愛媛県のHITO病院は、顧客接点である空間と従業員の制服や診察券など細部に至るまでパーパスや理念を落とし込むデザインを施しました。
“美術館のような寛げる空間で家族同様の患者と共に考える”
という考えのデザインをカタチのデザインに落とし込むことで、地域の病院との差別化、そして、優秀な医療従事者の確保という具体的な2つの目標を達成しています。
商材を持たない事業者であってもデザイン経営が成り立つことを立証している良い事例と考えます。(HITO病院のWEBサイト)
ただ、BtoB企業と同様に“企業理念をカタチのデザインに落とし込んだから患者が増えた”という直接的な因果関係を証明することは難しいことも事実として受け止めておきたいところです。
この投資効果を計測することの難しさがデザイン経営の浸透を阻む最も大きな壁であることは感じていただけましたでしょうか。
次の投稿では、ヒト、モノ、カネ、の視点からデザイン経営の実践が難しい点にフォーカスします。
(続く)中小企業にデザイン経営が浸透しづらい理由~ヒト、モノ、カネ~