中小企業がデザイン経営を推進するうえでの3つの課題~組織構造編~

デザイン経営の組織構造

デザイン経営を実践するための組織構造について論じた部分の要約になります。

戦略デザイナー森田昌希のビジネスレビュー

中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件の要約⑯になります。

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●デザイン経営推進への問題と課題

デザイン経営が上手くいかない問題は、

①デザインに関する意思決定が事業部に落ちてしまっていること

②「笛吹けど踊らず」経営層の独りよがり

と考えます。

デザイン経営の問題


①に対する課題は、

デザイン経営を実践するための組織構造の再設計

②に対する課題は、

デザイン経営を継続するための組織文化の醸成

デザイン経営が浸透するための評価システム構築

であると考えます。


●組織構造の設計

デザインに関する意思決定が事業部に落ちてしまっているのであれば、先ず組織構造の改革から取り組みます。

デザイン思考を持つ社内の人材と経営層で意思決定を行うために、デザインに関する意思決定を上位機関に格上げします。

デザイン経営のあるべき姿

そして社外の高度デザイン人材とともに、共感に始まりプロット&テストまでの一連を、アジャイルで進めていく仕組みを上記の意思決定機関に落とし込みます。

もう少し具体的に落とし込みます。

デザインに関する意思決定は以下のように事業部に落ちており、承認機能だけが上位にあることが多いです。

これを以下のように意思決定機関を格上げします。

とは言うものの、構造設計や機関設計は直ぐにできることではないでしょう。


●まとめ

現実的にはプロジェクトからのスタートでも十分です。

しかし、組織構造の出口をイメージしてからスタートするプロジェクトである必要があります。

デザイン経営について、方法論は多く論じられていますが実行には不十分です。

組織構造や評価システムまで設計しておかないと頓挫する確率は上がっていきます。

次のパートで文化論、そして3つ目のパートで評価システムについて論じていきます。


~続く~中小企業がデザイン経営を推進するうえでの3つの課題~組織文化~

中小企業にデザイン経営が浸透しづらい理由~BtoB企業編~

この投稿は、デザイン経営がBtoB企業では導入しづらい理由ついて論じた部分の要約になります。

ここまでは、中小企業の組織構造上問題点がデザイン経営の成功を阻害するという論点でした。

ここからは、企業規模に関わらずBtoBやサービス業もデザイン経営を導入しづらい理由があることについて論じていきます。

戦略デザイナー森田昌希のビジネスレビュー「中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」の要約⑬になります。

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●キーワード

デザイン経営/デザイン経営宣言/BtoB/サービス業


●BtoB企業に浸透していない事実

先に論じたように、デザイン経営の成功事例はBtoC企業に偏っています。

それはなぜか?

その理由を明確にし、原因を潰す対策を新たな要件として加えればデザイン経営はもっと浸透していくと考えています。

実際に、デザイン経営宣言の成功事例集を読んでも、大企業やBtoC企業の事例が殆どを占め、99.7%を占める中小企業の事例が殆どありません。

デザイン経営宣言

●BtoBとBtoCの違い

なぜデザイン経営はBtoB企業に浸透しづらいのか。

結論から言うと、BtoB企業におけるデザイン経営は売上に直結しないからです。

デザイン経営

その理由をBtoBとBtoCの根本的な違いに求めにいきました。

BtoCとBtoBの最も異なる点はなんでしょうか?

顧客が個人か法人かですね。

つまり、個人と法人の購買行動や行動心理の先行研究から異なる点を比較してデザイン経営の関与度を見ました。

個人:短期、機能and情緒、少人数、情報量少ない、接点多い

法人:長期、機能>情緒、大人数、情報量多い、接点少ない

BtoB事業は顧客が法人のため購買行動に以下の特徴があります。

・長期

緊急を要しない限り、年次の予算と計画で必要なものを検討し購入(導入)へ至ります。衝動買いという概念がありません。

・機能

必要な情報を多く集め、論理的に比較検討します。価格だけでなく、納期、調達先の企業情報、実績、テスト導入など定量的な情報を多く集め論理的に評価します。

・情緒

「パッケージがカッコいいから思わずカゴに入れた」はほぼ起こりません。価格、納期、実績など定量的な条件を満たしていないサービスをデザインのみで衝動的に導入することは殆どないと言えます。BtoCのマーケやブランディングでは重要視される情緒的価値が意思決定のトリガーになりにくい特徴があります。

・人数

法人の意思決定には複数の承認が必要で意思決定が多層構造であること多いです。そのため情緒的価値が薄れていきます。

隠れたキーマンを探せ

マシュー・ディクソン氏(2018)の調査によると、企業の購買関与者約3,000人に対して行った調査で平均5.4人が意思決定に関わっているというアンケート結果があります。

・情報

論理的な比較と承認のため多くの情報を求めます。意思決定が長期に渡るのは集める情報が多いからです。

この集める情報が多いという点が、デザイン経営導入の突破口になります。

逆説的ですが分かりやすい例えを入れておくと、お取り寄せグルメを買うときに会社概要や沿革や販売実績など企業情報を隅々まで見る人は少ないのではないでしょうか。(※ここでは買回り品を比較対象としています)

デザイン経営とは

・接点

購入者は多くの情報を求めるが接点それ自体が少ないという特徴がBtoBには見受けられます。販売している法人が少ない、簡単に取引が開始できない、など取引の接点が少ないんですね。

接点が少ないところで多くの情報を集めるというBtoBの特徴がデザイン経営導入の突破口になります。


●まとめ

BtoBの意思決定における隠れた特徴をまとめますね。

計数管理

意思決定のプロセスが論理的に実行されるということは、

限られた接点のなかで取引企業の情報を多面的に収集するということです。

顧客との接点は少ないが接する時間は長いことが特徴と言えます。

この投稿ではデザイン経営を導入するための要件ではなく、問題点を明確にする部分を論じているため問題点にフォーカスしています。

BtoBにおいて、コーポレートサイト等から信頼性や理念への共感があったとしても直接的に取引のトリガーになったかどうかの確認がしづらく、デザイン経営による成果が売上に直結していることを証明しづらいことが大きな問題点なのです。

この投資効果を計測することの難しさがデザイン経営の浸透を阻む最も大きな壁であると感がました。

次の投稿では同様にサービス業での問題点を明確にし、中小企業、BtoB、サービス業を、リソース軸で問題対策していきます。


(続く)中小企業にデザイン経営が浸透しづらい理由~サービス事業者編~

中小企業にデザイン経営が浸透しづらい理由~デザイン思考~

デザイン思考

この投稿は、デザイン経営が中小企業やBtoBや製品を持たない事業者では導入しづらい理由が組織構造上にあることについて論じた部分の要約になります。

戦略デザイナー森田昌希のビジネスレビュー

中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」の要約⑫になります。

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●キーワード

デザイン経営/デザイン経営宣言/中小企業/BtoB/デザイン思考/デザインのアウトソース


●デザイン経営の実践要件

しつこいですが、デザイン経営の実践要件は大きく言うと2つあります。

  1. 経営層(意思決定機関)にデザイン責任者がいること
  2. 事業戦略の最上流からデザインが関与していること

前回の投稿では、社内に経営感覚を持つデザイナーを抱えることは現実的でないためアウトソースで充分なのだが、デザインに関する意思決定が事業部に落ちてしまっている問題点を指摘しました。

デザインに関する意思決定には上流から関与する必要があり、

そのためには経営層が外注先や事業部との共通言語を持つ必要があることを提唱しています。

デザイン思考

●中小企業に浸透しづらい理由_デザイン思考

デザイン的意思決定を経営の最上流に移行する場合に必要なツール、それが経営層と事業部と外注先の共通言語となるデザイン思考です。

※デザイン思考についての要約はこちら

しかし、直ぐに大きな問題に直面します。

中小企業の経営者や経営層はデザイン思考というスキルを持っていないことが多いです。

また、中小企業経営にデザイン思考が効果的であることの実感はまだまだ薄いです。

ただ、デザイン思考とは先天的なスキルではなく、後天的に誰でも体得できるスキルであることは以前にも論じている通りです。

研修などで経営層と部門長が体得していくことは十分可能です。

教育だけでは不十分です。それなりに組織や評価制度のマイナーチェンジが必要です。


●3つの準備

デザイン思考を組織的に学び、組織的に活用していくためには準備が必要です。

  1. 教育
  2. 組織構造
  3. 評価

1.デザイン思考の教育・研修を、経営層と事業部責任者(外部研修を活用)で実施する。

2.組織構造を部分的に変更する。具体的には、デザインに関する意思決定を上位機関に格上げする。そして、意思決定機関で共感に始まりプロット&テストまでの一連をアジャイルで進めていく仕組みを準備します。(※研修で学んだ仕組みを意思決定機関に落とし込む)

3.評価制度を変更する。既存の人事評価のままでは事業部にインセンティブが働きません。定量的に評価しないことを前提とする枠組みでプロジェクトを組む必要があります(最大の難所)。

ハードル

簡単ではないです。

簡単にデザイン経営は実践できません。

だって、競争優位を組織的に獲得する術なのですから。


●まとめ

ここまでは、なぜ要件を満たすことができないのか?

最後に、どうすれば要件を満たすことができるのか?

そして必要な組織的な準備について論じてきました。

デザイン経営の疑問

言葉にすると簡単ですが、実際は困難です。さらに、事業特性も加味して実行するのは非常に困難です。
更に深堀りするため、次の投稿では「BtoBでは?」「サービス業では?」という視点で論じていきます。


(続く)

~BtoB企業でデザイン経営が浸透しづらい理由~

中小企業にデザイン経営が浸透しづらい理由~デザインのアウトソース~

デザインのアウトソース

この投稿は、デザイン経営が中小企業やBtoBや製品を持たない事業者では導入しづらい理由が組織構造上にあることについて論じた部分の要約になります。

戦略デザイナー森田昌希のビジネスレビュー

中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」の要約⑪になります。

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●キーワード

デザイン経営/デザイン経営宣言/中小企業/BtoB/デザイン思考/デザインのアウトソース


●デザイン経営の実践要件

前回の投稿と重複しますが、おさらいしておきます。

  1. 経営層(意思決定機関)にデザイン責任者がいること
  2. 事業戦略の最上流からデザインが関与していること

(経産省デザイン経営宣言より)

デザイン経営

前回の投稿では、中小企業の実情を踏まえると上記の要件を満たす中小企業が極めて少ないこと、そして、デザインに関する意思決定が事業部とアウトソースによって行われていることについて論じました。

実情に寄り沿いながら、どうすれば要件1と2をを満たすことができるのか?このアプローチからデザインのアウトソースそのものを見直し、次回の投稿では中小企業でもデザイン経営を実践できる新たな要件を導きます。


●中小企業に浸透しづらい理由_アウトソース

「経営感覚を持つデザイナーが社内にいない」

「そもそも社内にデザイナーがいない」

デザインスキル

リソースを最小限で経営する中小企業では珍しくありません。自然と「デザインは社外にアウトソースする」となります。

重要なのは、誰がアウトソースするか?です。

皆様の会社で考えてみてください。デザインを外注する部門ってどこになりますか?マーケやプロモーションやセールスだと思うのですが、それぞれにデザイン人材を抱えることが難しいので作業として外注している会社が多いのではないでしょうか。

デザインの外注

つまり、デザイナーとの接点が各部門にありデザインの意思決定が事業部に落ちてしまっている状態です。

「②事業戦略の最上流からデザインが関与していること」

2つ目の要件がここで大きなポイントになってきます。

デザイン経営で高い競争力を持つためには、事業部の業務的意思決定によるデザインではなく、経営の戦略的意思決定によるデザインを選定することが必要なわけです。

「経営戦略があって、事業戦略が決まり、実行のために必要な成果物(デザイン)を創造(発注)する」という一連のなかで、創造(発注)に経営層が関与する必要性を言っています。

ところが実際の声はどうでしょうか?

経営層「センスに自信がないしデザインの事は分からない。方針を現場に伝えるまでが私たちの仕事だ。」

事業部「忖度なしでターゲットに刺さるデザインを採用したいんだけどなぁ。」

外注先デザイナー「偉い人が出てくると、言っていることが抽象的過ぎてよく分からない。」

デザイン経営の難しさ

全ての中小企業が同じとまでは言いませんが、

軒並み同じようなリアクションではないでしょうか。

では、あるべき姿がどうであるかを先に言うと、

経営層「当社の存在意義(パーパス)を参照したデザインになっているか知りたい。」

事業部「存在意義や理念や方針を理解するだけでなく、ユーザーにとってのバリューと紐づけ言語化して外注先に伝えるのが役割だ。」

外注先デザイナー「言語化されたクライアントの存在意義に寄りそったカッコいいものを納品したい。」

になるような条件を整えてやる必要があるということです。

デザイン経営

理想を掲げるのは簡単なので、どうやればあるべき姿に到達するかを論じる必要があります。3者が意思疎通するために何が必要なのか。


●まとめ

経営層と事業部と外注先が、意思の疎通を図るためのツールが必要になってきます。

それがデザイン思考になると私は考えています

次の投稿では、デザイン思考の必要性と、デザイン思考を実践するための組織的な必要条件について論じていきます。

※デザイン思考そのものについて論じた要約はこちら

(続く)中小企業にデザイン経営が浸透しづらい理由~デザイン思考~

中小企業にデザイン経営が浸透しづらい理由~CDO~

デザイン経営の組織

この投稿は、デザイン経営が中小企業やBtoBや製品を持たない事業者では導入しづらい理由が組織構造上にあることについて論じた部分の要約になります。

戦略デザイナー森田昌希のビジネスレビュー「中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」の要約⑩になります。

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●キーワード

デザイン経営/デザイン経営宣言/中小企業/BtoB/CDO/これからのデザイン経営/デザイン思考/デザインのアウトソース


●デザイン経営の実践要件

2つありましたのでおさらいしておきます。

⑴ 経営層(意思決定機関)にデザイン責任者がいること

⑵ 事業戦略の最上流からデザインが関与していること

デザイン経営

前回の投稿でも論じましたが非常にハードルが高いんです、中小企業にとっては。

実際に経産省のデザイン経営宣言の成功事例集をでも大企業やBtoC企業の事例が殆どを占め、99.7%を占める中小企業の事例が殆どありません。この違和感を無くし、中小企業でもデザイン経営を実践し、産業競争力を強化して初めてデザイン経営は社会に浸透したと言えるのではないでしょうか。

なぜ要件を満たすことができないのか?

どうすれば要件を満たすことができるのか?

デザイン経営

この2つのアプローチから中小企業でもデザイン経営を実践できる新たな要件を私の論文で導きました。


●中小企業に浸透しづらい理由_CDOの存在

デザイン経営が中小企業に浸透しづらい理由は、デザイン経営の実践要件1と2を満たすことが難しいからです。

ものすごくシンプルです。

⑴ 経営層(意思決定機関)にデザイン責任者がいること

中小企業でお勤めされた経験がある方なら分かると思いますが、CDOがいる中小企業なんてあります???

「経営感覚を持つデザイナー」と表現されていますが、そんな方が中小企業にいらっしゃいます???

(※「キーパーもできるストライカー」が昔の鹿児島実業にいたのを思い出しました)

デザイン経営

デザインを主幹業務とする会社を除けば、経営層にデザイナーがいる中小企業は稀有であると言い切っても良いと感じます。経営感覚を持つデザイナーと表現されるような高度デザイン人材を中小企業が保有することは、現実的ではないと感じてしまいます。

このような高度な人材を採用するどころか、

中小企業ではデザイナーを自社に抱える余裕さえないのが現実です。

これからのデザイン経営

「宣言では社内にデザイン部門を抱えるメーカーなど大企業を想定していました」

(永井,2021,『これからのデザイン経営』p.85.)

と足らずであったことを永井氏(2021)も自著で顧みています。


●まとめ

社内にデザインに関する意思決定を行える高度人材がいない(採用できない)ことを前提とすれば、そのリソースを社外に求めることになります。

しかし、作業を外注するという成果が重視され、プロセスは軽視されがちなのが現実と考えます(経験談)。

デザインをアウトソースしつつデザイン経営を実践するための要件は何か?を次の投稿で論じていきます。

続く~中小企業にデザイン経営が浸透しづらい理由~デザインのアウトソース~

デザイン経営の成功事例と現実のギャップ

デザイン経営の成功事例

この投稿は、デザイン経営宣言におけるデザイン経営の要件と、要件を満たす事例企業のついて論じた部分の要約になります。

デザイン経営を実践するための要件を押さえ、中小企業やBtoB企業でデザイン経営を実践しづらい理由について論じていきます。

戦略デザイナー森田昌希のビジネスレビュー

中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」の要約⑨になります。

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●キーワード

デザイン経営/デザイン経営宣言/CDO/MFA/デザイン責任者/クリスチャン・ベイソン/マツダ/キヤノン/ヤマハ発動機/NEC


●デザイン経営の実践要件

デザイン経営宣言では、デザイン経営を実践するための要件を以下2つに整理しています。

⑴ 経営層(意思決定機関)にデザイン責任者がいること

⑵ 事業戦略の最上流からデザインが関与していること

もうこの時点で「そんなこと簡単に言うなよなw」

て感じた方も少なくないと思いますが、いったんスルーします。

●デザイン責任者

確かにCDO(Chief Design Officer)の存在や、MFA(美術学修士)の名称を目にする機会が増えています。

MBAからMFA

しかし、ポピュラーであるとまでは言えず、2021年現在の日本では、経営層ではなくマーケティング部門の中にデザイン責任者がいることが多く、業務的意思決定の範疇にデザイン責任者の椅子は置かれていることが多いのではないでしょうか。

デンマークデザインセンター

デザイン責任者が経営層にいるかマーケ部門にいるかという組織構造上の差異が競争力の差異になることを指摘しているのがデンマークデザインセンターCEOのクリスチャン・ベイソンでです。

●要件を満たしているケース

①デザイン責任者の座り位置

意思決定機関にデザイン責任者の椅子があるケースをご紹介します。

MAZDA

マツダでは2016年にブランドスタイル統括部という部門を新しく設置しています。

メディアと販売店を通じて外部に出る魂動デザインの伝播を統制することを試みたわけですが、自動車業界において本体が販売店などマーケ施策に関与することは珍しく強い反発があったらしいです。

しかし、マツダの前田常務執行役員はデザインの意思決定を販売店に任せず、マツダ本体の統括部で意思決定を行うことに強く拘ったそうです。

その結果、マツダの魂動デザインは販売店を巻き込み全社的に統制され、全国どこのお店でも顧客体験を重視したプロモーションが実施されています。

ヤマハ発動機

ヤマハ発動機は、“コンセプト・卓越した技術・デザイン”が経営の根幹であるとの社内の共通意識を醸成し、“デザインは企業の想いそのもの”という考えを加味したうえでデザインの機能を一部内製化(デザイン本部を設置)しています

キヤノン

キヤノンは、社内のデザインのスキルセットを集約してシナジーを生むことで産業競争力強化を図るためにデザイン室の統合を行い、名称を総合デザインセンターに変更して会長・社長直轄の組織として位置付けています

②デザイナーの立ち位置

戦略的に最上流からデザイナーが関与しているケースをご紹介します。

NEC

NECでは企業としてどのようなビジネスに取り組んでいくかという構想の段階からデザイナーが入ります。

デザイナーは顧客インサイトなどのより潜在的な課題の発見・掘り起こしと、それらの課題を解決するデザインを求められ、もはやプロダクトデザインの範疇ではなくなっています。

デザイナーへの要求が非常に高い印象を受けました。

この要求に応えられる高度デザイン人材を確保できていることが分かります

●まとめ

このようにデザイン経営の要件を満たす企業の事例が多くあることが分かりました。

「う~ん、でもな・・・」と感じられた方も多いのでは?

疑問

先にも述べた通り、デザイン経営が浸透していない現実とその理由がここにあるのではないでしょうか。

デザイン経営の実践企業として事例掲載される殆どの企業が大手企業かBtoC企業なんですね。世の中の殆どが中小企業とBtoB企業なのに、成功事例の殆どが大企業かBtoC企業である違和感たるや半端ないです。

デザイン経営の成功事例

デザイン経営宣言の成功事例分類私の論文では、

中小企業やBtoB企業に浸透しづらい理由を探究し、中小企業やBtoB企業でもデザイン経営を実践できる追加要件を導き出すことが目的になります。

~続く「デザイン経営が中小企業に浸透しづらい理由」~

アート思考とデザイン経営

アート思考

この投稿は、デザイン思考と対比的に捉えられるアート思考について論じた部分の要約になります。

戦略デザイナー森田昌希のビジネスレビュー

中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」の要約⑥になります。

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●キーワード

デザイン経営/アート思考/デザイン思考/VUCA/両利きの経営/イノベーションのジレンマ/連続的イノベーション/破壊的イノベーション

●時代背景

VUCAやコト消費など、経営をとりまく環境が著しく変化したことにより、顧客へ提供する価値の基準が変化したことは要約②で述べました。
デザイン経営がなぜ競争力になるのか?

過去の実績や定量データをベースにした科学的なアプローチや論理的なアプローチでは、皆が同じ解にたどり着くため差別化(競争力)につながらなくなったと言われています(コモディティ化)。

計数管理

その中で注目を浴びているのがデザイン経営なんですが、

その根底にあるデザイン思考と並べて論じられるアート思考という思考プロセスがあるので簡単にご紹介します。

●アート思考とデザイン思考の違い

その違いは、主に2つあると解釈しました。

  • ユーザーとの距離感
  • 産み落とすイノベーションの種類

デザイン思考は「You&I」で、Youを観察しますが顕在ニーズを参考にしません。観察するだけで、「 I 」が潜在ニーズを仮説と検証を繰り返すことで浮き彫りにしていくプロセスです。

アート思考は「 I 」でアウトプットを生み出します。ユーザーを観察もしなければ、ユーザー側にあるニーズを考慮しません。我が道を突き進みます。論文ではユーザーとの距離感という言葉でその違いを表現しました。

アート思考


産み落とすイノベーションの種類について、

  • デザイン思考は、連続的(漸進的)イノベーション
  • アート思考は、非連続的(破壊的)イノベーションゴール

この点が異なると私は解釈しています。

(※両方とも破壊的イノベーションを生むと唱える研究もあります)

破壊的イノベーション

そして、この2つの思考プロセスは何かと対比的に語られることが多いんですね。

しかし、私は以下の視点を忘れないようにしています。それは、

  • どちら良い悪いという議論は不要
  • どちらが時代に合っているかという議論は不要

それぞれの企業に必要なイノベーションに応じて思考プロセスを採用することが重要です。もし破壊的イノベーションを求めるのであれば、そのプロセスはアート思考を選択すれば良いんです。

両利きの経営

余談ですが、連続的イノベーションを深化、非連続的イノベーションを探索と捉えると、デザイン思考とアート思考の使い分けが両利きの経営(O’Reilly Charles A.とTushman Michael L.2016)の実践につながるとも私は考えています。

●アート思考とデザイン経営

アート思考のものづくり

延岡氏は、アート思考は顧客や時代に迎合する必要はなく信念や哲学を表現するものづくりであると冒頭で論じています(「アート思考のものづくり」延岡,2021,p.22.)。

ただ、その続きとして、「顧客の経験価値を融合されることで新次元の価値へ昇華させることができる」とも言っています。

アートとアート思考の経済的な違いはここにあると私は解釈しました。

(間違っていたらすいません)

ゆえに、デザイン経営の論文にアート思考のパートを挿入しました。

ユーザーとの距離は遠いけれど、市場に受け入れられることに価値基準を置いている思考方法で、そのアウトプット自体は独自性(ブランド)の確立そのものであると考えたからです。

アート思考

デザイン経営のベースとなる思考プロセスは複数あり、

その選択肢は企業規模や扱うプロダクトによって異なることが分かってきました。

求めるゴールを明確にする。

そして、そのゴールへのプロセスを選択する。

その道順でデザイン経営の導入を進める必要がありそうです。

~続く「デザイン経営の成功事例」~

デザイン思考~デザイン経営~

デザイン思考

この投稿は、「デザイン思考とデザイン経営」についての要約です。

戦略デザイナー森田昌希のビジネスレビュー

中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」の要約④になります。

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●キーワード

デザイン経営/デザイン思考/デザインシンキング/共感/デザインドリブンイノベーション/戦略デザイナー

●デザイン思考は単なる手段

いきなり超重要なポイントです!

デザイン思考とは先天的な才能ではありません。

また、デザインセンスを持つ人だけが体得できる専門スキルでもありません。

デザイン思考は、全ての人が後天的に体得できる思考方法(単なる手段)に過ぎないんです。

デザインドゥーイング ⇒ 先天的なセンスが影響

デザインシンキング ⇒ 後天的な汎用スキル

●共感から始まるデザイン思考

デザイン思考は、ユーザーを観察し、ユーザーに共感し、ユーザーも気づいていない潜在的な課題に目を向けます。

デザイン思考

そして、課題と技術を結び付けたアウトプット(プロット)を出すところから始まり、

共感とアウトプットをアジャイル的に反復するのがデザイン思考です。

なので ”考え方” というより ”手段” に近いんですね。

起点がフレームワークや過去の実績や科学的根拠や機能的価値ではなく、

デザイン思考の起点はユーザーへの共感にあります

●ユーザー目線

良品計画の金井政明会長は、日経ビジネス(2019年2月20日号)の記事で次のように語っています。

無印良品のデザイン経営

「企業は天動説になってしまいます。自分の会社から世の中を見てしまいます。世間は自分たちの会社や商品を分かっていると思い込みたいし、思い込みます。」

ユーザー目線を企業が持つための(天動説を地動説に置き換えるための)機能の必要性を説いていらっしゃるんですね。

社内のボードメンバーが下すマーケティングや顧客志向による意思決定では、天動説(既存の尺度)の枠組みから出ることは難しい。

なので良品計画はアドバイザリーボードを置き、天動説に偏った意思決定を排除できる体制を整えているようです。

①デザイン思考を持たないボードメンバーによる意思決定からイノベーションは起きない

②ボードメンバーから降りてくるロジカルな意思決定による制約条件なかで、事業部によるデザインの意思決定からイノベーションは起きない

●デザイン思考による経営の意思決定

良品計画のように、デザイン思考による意思決定が事業部ではなく経営層にあるべきという先行研究をご紹介します。

TimBrown氏は、

今やデザインは思考プロセスとして上流に移りつつあるのだ

(Tim Brown(2009)CHANGE BY DESIGN、(邦訳 千葉敏生訳(2010)『デザイン思考は世界を変える』早川書房.p.18))

と著書で述べています。

事業部にあったプロダクトデザインという組織の機能から、デザイン思考による意思決定機関としてレイヤーが上がって重要度が高くなっています。

その理由は、デザイン思考によるデザイン経営が独自性(ブランド)と新しい市場価値(イノベーション)を創造し競争力の源泉になることが分かってきたからなんですね

デザインに携わる方にしてみれば「遅っ」と思われるでしょう(笑)。そもそもデザイン経営は過去数十年に言葉をかえて提唱されてきた概念でもあります。デザイン経営の歴史についてはネットを調べれば情報がたくさんあるので本稿では割愛します。

●デザインドリブンイノベーション

デザイン思考がイノベーションにつながった事例としてニンテンドーwiiの先行研究を紹介します。

『デザインドリブンイノベーション(以下DDI)』(ベルガンティ,2016)で、

枯れた技術に意味を付与する意味の価値、つまり“ゲームを楽しむ”から“運動する”価値転換(バリュートランスフォーメーション)により新しい市場を創造したイノベーションであると言っています。

ただし、起点を同じユーザーとしているが、

ユーザーの中でもYou(2人称)かPeople(3人称)かで少し異なると言われています。

森永氏は自著でデザイン思考とDDIとアート思考の起点について整理している(『デザイン、アート、イノベーション』同文館出版,2021)。

各概念の守備範囲の違い

さらに、「DDIは3人称のPeopleに注目した取り組みであり社会的に既に共有された意味を革新することで新しい価値を生む(中略)マクロな意味に注意が向く」(森永,2021,p.157.)とも言っています。

簡単な言葉に置き換えると、

①2人称か3人称か

②マクロかミクロか

という違いはあるものの重要なことは、

デザイン思考もDDIも、経営戦略の上流にあることがイノベーション視点からも捉えることができる

ということです。

●まとめ

デザイン思考とは、単なる手段やプロセスにしか過ぎない。デザイン思考に似た手段やプロセスは他にもあり、どうやらイノベーションの出発点になっている。

従って、経営の意思決定と直接的に関わる必要がある。

デザイン思考とイノベーションが切っても切り離せない関係にあることを次の投稿で要約します。

私のビジネスレビュー「中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」では、並んで論じられるアート思考デザインドリブンイノベーションなどと比較しながらデザイン思考を論じています。

次の投稿では、イノベーションについての研究結果を要約していきます。

~続く「デザイン経営とイノベーション」~

なぜデザイン経営が競争力の源泉になるのか

差別化と競争力
デザイン経営と差別化

戦略デザイナー森田昌希のビジネスレビュー

中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」の要約②になります。

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この投稿では「デザイン経営が競争力になる理由」についての要約です。

●キーワード

デザイン経営/デザイン思考/競争力/VUCA/ロジカルシンキング/コモディティ化/独自性/新しい市場価値/コト消費/付加価値/情緒的価値/戦略デザイナー

VUCA

最近よく聞きますよね、VUCA

Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)

これらの頭文字を並べた言葉で、元はアメリカの軍事用語です。

現在は今の時代を表す言葉として用いられビジネスシーンでのホットワードで、ビジネスを取り巻く環境変化が極めて不安定であることを端的に表しています。

VUCA
VUCA

経営の意思決定

これまでの経営は、意思決定が論理的に導かれてきました。

ロジカル思考
ロジカル思考

過去の成功体験や成功事例から科学的に未来を予測することで合理的な解(意思決定)を求めてきたし、それで結果が出てきたことも事実です。

しかし、過去のデータやノウハウを可能な限り標準化し、数字に裏打ちされた論理的な思考で求める解はVUCAの時代では切り札にならないと言われています。

論文で「※個人の感想です」は通用しませんので、しっかりと「誰が?」を明示しておきます。

デザイン思考の道具箱
奥出直人(2013)『デザイン思考の道具箱』早川書房

奥出(2013)さんは、

このような変化のなかで経営において利益あるいは利潤を生みだすものとされていた技術や知識が、もはや切り札にならない」(奥出,2013,p.44.)と言っています。

世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか
山口周(2017)『世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか? 』 光文社新書

山口(2017)さんは、

複雑化・不安定化した現環境で論理的思考による意思決定による戦いは困難を極める」(山口、2017)と言っています。

日経ビジネス
株式会社日経BP「日経ビジネス」(2021年5月

A・T・カーニー日本の梅沢高明会長(2021)は、

数字に裏打ちされた論理的な思考だけでは企業は新たな製品やサービス開発に対応できなくなった」(日経ビジネス,2021,5/30号)と言っています。

私の個人的な感想ではないことはご理解いただけましたでしょうか(笑)

デザイン経営の効果
デザイン経営の効果

このような環境下において、

デザイン経営による独自性(ブランド)と新しい市場価値(イノベーション)は競争力の源泉となるとデザイン経営宣言に書かれています。

当然これは中小企業に限ることではなくグローバルな大企業にも言えることです。

コト消費

もう一つの要因として、

モノを消費する時代からコトを消費する時代へ転換したことが大きいと言われています。

コト消費
コト消費

これは単なる消費行動の変化だけでなく、

企業が差別化するベクトルも一緒に変化したと言われています。

こちらも個人の感想ではありません(笑)

経営とデザインのかけ算
尾崎美穂(2020)『経営とデザインのかけ算』合同フォレスト

尾崎さんは自著のなかで(尾崎,2020)

「技術力の高さを伝えるだけでは消費者の購買意欲は湧きませんし、他社との差別化も難しくなります。商品やサービスに消費者が求める付加価値を与えて“選びたくなる理由”を作り出す必要があります」(尾崎,2020,p.21.)と言っています。

意思決定の変化“選びたくなる理由”が機能的価値から情緒的価値にシフトしたことは、

論理的思考で導かれた企業の意思決定と市場が結びつかなくなったと私も考えています。

デザイン思考から生まれるもの

「機能的な差別化はマネされやすい」

デザイン思考

この一言に全てが込められていると思いませんか?

機能的な尖がりは、独自性(ブランド)や新しい市場価値(イノベーション)にならない時代になりました。

A:5合のお米を40分でふっくら炊き上げる高機能炊飯器
B:あなたのキッチン空間に溶け込むバルミューダのデザイン炊飯器

Aの場合、

「じゃ弊社は、6合を35分で炊き上げる炊飯器を開発しよう!」

と目標設定が容易になります。

「目標設定が容易=意思決定しやすい」

意思決定

経営に関わる業務に就いたことがあると痛感しませんか?

定量的な判断材料で意思決定することが体の隅まで染み渡っているんです。

この意思決定は、競合が参入しやすい市場を形成していることに繋がるため、

短期的な価値になってしまいます。

一方Bの場合、

「バルミューダのデザインをパクろう」

とはなりづらいですよね。※非常識なメーカーを除く

デザイン思考によるデザイン経営

論理的意思決定経営→機能的な成果物→機能性優位による独自性や新市場価値→短期的な競争力


デザイン思考によるデザイン経営→情緒的な成果物→情緒的優位による独自性や新市場価値→長期的な競争力

デザイン思考から生まれるもの

デザイン経営が競争力になる理由は、

デザイン思考によるブランド創造やイノベーションの創出が模倣困難な競争力になるからです。

デザイン経営の競争力

不安定な経営環境や消費者の行動の変化のなか、

これまでの科学的アプローチによる効率的な経営手法やコスト削減による経営改善が通用しづらくなりました。

その視点にいち早く気付いた経営者は早くからデザイン経営を実践しています。

では、どうやればデザイン経営を導入できるのか。

私のビジネスレビュー

「中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」では、

先行研究をベースに方法論を論じています。

次の投稿では、その方法論について分かりやすく要約していきます。

~続く「企業の存在意義(パーパス)の設定」~