~獺祭~旭酒造の競争力をデザイン経営の視点から分解

獺祭

~獺祭~旭酒造のデザイン経営

獺祭で有名な旭酒造は、マーケティングやイノベーションや地方創生の視点で論じられることが多いですよね。先行研究にも良く取り上げられています。

旭酒造のWEBサイトはこちら

大学院のケーススタディでは頻出企業でした(笑)。

本稿では、少しレイヤーをあげてデザイン経営の視点で旭酒造の競争力を分解してみました。

デザイン経営の論文要約はこちら

パーパス ⇒ デザイン経営 = ブランド × イノベーション

獺祭のブランド × 獺祭の新しい市場価値(生産と流通)に置き換え、

それぞれレビューしていきます。

要点だけをまとめて5分で読めるボリュームに要約しました。

デザイン経営の効果
デザイン経営の効果

———-index————-

①旭酒造のパーパス

②獺祭のブランド

③獺祭の新しい市場価値_生産&流通

④まとめ

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①旭酒造のパーパス

『酔うため、売るための酒ではなく、味わう酒を求めて。』

旭酒造のパーパス

やはり二人称で掲げられていました。

企業にとって「売るための酒ではなく、味わう酒」であり、

お客様にとって「酔うためではなく、味わう酒」であります。

まさに共感ベース(YouだけでなくYou&I)で礎が打ち込まれています。

※私の研究では2人称はYouではなくYou&Iになりますが、3人称のWeとは区別しています

  • I    =アート思考⇒創造の手段
  • You   =顧客志向(マーケ2.0まで)⇒顕在ニーズを満たす手段
  • You&I =デザイン思考⇒潜在的問題解決の手段
  • We =社会思考(DDIなど)

②獺祭のブランド

●2割3分の純米大吟醸

獺祭

「味わう酒」を追求するとここまで磨くことになります。

つまり原価が高騰します(通常の純米大吟醸が5割)。

新しい顧客が新しい体験をするために必要なコストであるという経営判断をしたんですね。

「You&I」と言うより「I」が強め、アート思考よりでかなりのギャンブルですね(笑)。

●希少性

ブランドコントロールのためなど様々な理由はありますが卸を介さないことが希少性に繋がりました。

しかし、生産戦略の視点から疑問が残ります。1000本の需要に対し10本しか生産できないことは機会損失が大きすぎます。1000本の需要に対し999本生産したいところです。希少性と機会損失のバランスは本当に難しいですね。

●その他

  • 「杜氏の新たな雇用形態」
  • 「火入れなど他社が模倣困難な製法」
  • 「属人化させない製法」
  • 「ワインがライバル」
  • 「海外でもローカライズしない」

など常識を覆した弱小酒蔵としてメディアが取り上げ続けたことが最もブランド構築に役立ったのではないでしょうか。中小企業でも広報PRが重要な事例と思います。

中小企業のPR

③獺祭の新しい市場価値

●生産のイノベーション

杜氏の暗黙知やノウハウなど属人的な製法を可能な限り止め、計数管理による生産の見える化を実現させました。日本酒の製法におけるイノベーションですね。学術的に見ても、組織の5原則である専門性の発揮や、模倣困難性、支える組織もしっかり設計されています(VRIO)。

計数管理

●流通

・直販

決定的なイノベーションは卸を排除し酒屋への直販体制を敷いたことです。

田舎の弱小酒蔵が、並々ならぬ営業努力により、獺祭会という直販体制を構築しました。

直販

直販体制を敷く必要があった理由は、価格統制、ブランド維持、エンドユーザーの声、を重視したからだそうです。

・いきなり東京

地産地消という酒蔵と顧客にとっての当たり前を排除し、いきなり東京進出しています。地元を懐かしむ東京在住の山口の方がイノベーターとなり、アーリーアダプターを巻き込みキャズムを乗り越えています。

流通と消費行動の2つの意味でのイノベーションですね。

マーケティング

また、直販により顧客との距離感が縮まったため顧客の消費行動をダイレクトに収集することができました。

その結果、STPで新しい消費行動による市場を見つけたんですね。

具体的には、新しいターゲット(若者&女性)と新しい消費行動(洋食店で日本酒)です

女性とお酒

④まとめ

以上より、ブランドとイノベーションにより競争力を得た獺祭は大きな市場を見つけ、先行者優位による強いロイヤルティも獲得しました。知名度のない田舎の弱小酒蔵でも、デザイン経営で東京や世界へ飛び出すことができたわけです。

海外進出


ここからは補足ですが、上記までの内容をもっと学問的にまとめました。

ご興味ある方は是非お読みください。


~続き~

日本酒の市場がシュリンクを続けるなかで(環境変化)、

①をベースに②と③の強みを生かし(模倣困難な組織と体制を構築)、

競争力を高めた(マーケティング)事例と言えます。

●国内マーケティング

誰と:

獺祭会に属す既存の酒屋と

誰に:

ワインバーなど通常日本酒を置かない飲食店に

何を:

和食以外にも合う磨き率の獺祭を

どのように: 

①旭酒造の営業担当と酒屋が、地域の飲食店情報をベースに新規開拓戦略を実施することで上記ターゲットを見つけ出す。

②日本酒が好きな玄人ではなく、食事前のおつまみと一緒に少量のお酒を健康的に楽しむ方や、美味しい食事を楽しむ一般の方に獺祭が合うことを酒屋と共に店頭訪問しブランド認知度も絡めて訴求する(プッシュ)。 

③可能な範囲で社長がメディアに露出する際に、獺祭の新しい楽しみ方、つまり酒自体を味わうのではなく食事を楽しむ(モノ消費ではなくコト消費)ことをパブリシティに載せる(プル)。 

④成功事例や導入事例を他地域で横展開させる。

効果:

以上により、新しい市場へのTPを作り、売上数量を増加させ、酒屋との関係性強化を図ることで代理店の定着率と代理店のレベルの高さを担保した。

そして、社長の想い「美味しいお酒を新しいお客様に届ける」ことを実現させた(アンゾフ市場開拓)。

●海外マーケティング

誰に:

海外の展示会で新しく接する海外代理店に

何を:

ローカライズしない日本らしい純米大吟醸である獺祭を

どのように(展示会では):

①純米大吟醸の価値を訴求する。

②酒自体を楽しむのではなく、食事と楽しむコト消費型の日本酒であることを訴求する。

どのように(契約後は):

①日本で実施している勉強会や営業担当者と酒屋での密なコミュニケーションにより、商品情報や知識やロイヤルティなど販売店の品質を国内同様に担保する。

②一定のレベルを担保した代理店と限定的に取引を行う。

効果:

以上により、海外という新市場を開拓することで、売上数量を増加させ代理店との関係性を強化した。

また、日本の獺祭会のような組織的な販売チャネルを海外でももつことで、獺祭というブランドを海外でも国内と同様に担保した。

そして、社長の想い「日本らしい香りと味の美味しいお酒を海外のお客様にも届ける」ことを実現させた(アンゾフ市場開拓)。

最後は何だか診断士の筆記試験の解答のようになってしまいましたね(笑)。

おわり