辛子明太子とオープンアーキテクチャ

大学院(MBA)で、オープンアーキテクチャの成功事例として辛子明太子を取り上げました。

その特徴とメリット・デメリットについて論じた課題を3分で読めるボリュームに要約しています。

辛子明太子の拡販成功については諸説あるが、本論は最も有力とされている株式会社ふくや(福岡県福岡市博多区に本社)の創業者である川原氏による事例をベースにしています。

●キーワード

オープンアーキテクチャ/商標/特許/プロセスイノベーション/プロダクトイノベーション/

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①はじめに

②特徴

③メリット

④デメリット

⑤まとめ


①はじめに

辛子明太子の食品としての起源や歴史や背景などの解説は割愛するが、“漬け込み型辛子明太子”を普及させたのが株式会社ふくやの創業者である川原氏ということらしい(「福岡県における製造業のローカルな経営戦略」今西・中谷2008年)。

株式会社ふくや

1970年代に明太子市場が一気に全国展開したのは山陽新幹線の開通が大きな機会となったと言われています。出張にきた関東圏・関西圏のサラリーマンのお土産品として重宝されたそうです。


●特徴

“漬け込み型辛子明太子”が普及したのは、川原氏がその製法をライセンス化せず無償で公開したからと言われています。製法どころか、調味料の仕入れ先を紹介し、保存のノウハウなど10年以上も開発してきて得た情報や無形資産を惜しげもなく同業者に公開したらしいです。

競合

資本を投入しても獲得することの難しい模倣困難な経営リソース(無形資産)を惜しげもなく提供するということは、ここまで大学院や中小企業診断士受験で学んできた”競争優位”の理論を全てひっくり返すような戦略となり狼狽してしまいます。しかし、オープンアーキテクチャという理論から捉えると、その戦略の全貌が見えてきました。

競争優位

このオープンアーキテクチャ戦略により市場は九州を中心に全国まで瞬く間に広がっていきました。今では市場規模1,200億円まで発展しています。

製法を公開したエピソードについて掘り下げていきます。

機会を得て売り上げが伸び始めた頃にふくやの社員たちは、「商標登録や製法特許を取るべきだ」と訴えたらしいです。

それに対して川原氏は、「そんな必要はない」と即答したらしいです。

漬物を引き合いに出し「漬物にはさまざまな味がある。同じ大根でも白菜でも、漬け方ひとつで味は変わる。家庭ごとでも味が違う。そんな漬物に商標はあるか? 製法特許はあるか? 明太子だって誰が作ってもいいではないか」と説いたとのこと。この川原氏の方針で、一種の産業クラスターが起こり、地域ブランドが確立されたのではないでしょうか。


●オープンアーキテクチャのメリット

次に辛子明太子の事例で、オープンアーキテクチャのメリットを論じていきます。

まず、“漬け込み型辛子明太子”の製法やノウハウを無償で公開することで、単純にプレイヤーが増えていきます。プレイヤーが増えることは市場の拡大を意味します。全国的な有名店も複数ありますが、九州で有名な事業者も多くいることが分かります。マーケを担当していると痛いほど身に沁みますが、新しい市場を創造するには認知活動コストと時間的コストが大きな負担になります。そのコストパフォーマンスを考慮すると参入障壁を無くしプレイヤーを増やすというのはマーケ戦略的に有効と言えるのではないでしょうか。

マーケティング

次に、プレイヤーが増えることで“知識の結実”が見受けられたことをメリットにあげます。

先にも述べたように味自体はインテグラル化され独自の歴史的背景に基づくもので、プレイヤーが独自性を出すことで競争の原理が働きプロセスイノベーションが起きていると言えます。

イノベーション

●オープンアーキテクチャのデメリット

次に辛子明太子の事例で、オープンアーキテクチャのデメリットを論じていきます。

フリーライド(ただ乗り)する模倣企業は、開発コストを負担することなく市場に参入できてしまうことでしょう。

“漬け込み型辛子明太子”についても当然同様の現象が起こった、というより川原氏は意図的にフリーライドを歓迎したのではないでしょうか。デメリットを逆手に取る意図があったのです。“元祖ふくや”として既に全国的にもブランドが認知されているため、オープン化戦略の課題「どこから利益が出るか」について戦略的に明確となっていました。


●まとめ

最後に元祖ふくやの今後の課題について考察しています。

デザイン経営の効果

オープンアーキテクチャ戦略での懸念事項としては、

コモディティ化と価格競争

があげられます。

市場が成熟しているところからもコモディティ化は進んでしまっていることわ分かりました。しかし、元祖ふくやでは先にも述べた通り高級路線への研究開発に積極投資を起こっています。また、贈答用、減塩タイプなど市場のニーズや環境変化に合わせた製品戦略を取っていることも今回の調査で分かりました(プロダクトイノベーション)。

つまり、コモディティ化と価格競争への対策は戦略的に実行されている。

対策

ただ、今後の課題について気になる点が一つありました。

広報(SNS)対策が進んでいないところが今回の調査で分かりました。例えばTwitterをご覧いただくと分かりますが、アビスパ福岡の公式アカウントかと見まがうほど統一性がなく“元祖ふくや”としてのブランド認知のために活用されている状況ではありませんでした。

オープンアーキテクチャ戦略のメリットとデメリットを把握したうえで、組織的な広報戦略(SNS戦略)を立てる必要があると考えます。

以上