辛子明太子とオープンアーキテクチャ

オープンアーキテクチャ

大学院(MBA)で、オープンアーキテクチャの成功事例として辛子明太子を取り上げました。

その特徴とメリット・デメリットについて論じた課題を3分で読めるボリュームに要約しています。

辛子明太子の拡販成功については諸説あるが、本論は最も有力とされている株式会社ふくや(福岡県福岡市博多区に本社)の創業者である川原氏による事例をベースにしています。

●キーワード

オープンアーキテクチャ/商標/特許/プロセスイノベーション/プロダクトイノベーション/

———-index————-

①はじめに

②特徴

③メリット

④デメリット

⑤まとめ


①はじめに

辛子明太子の食品としての起源や歴史や背景などの解説は割愛するが、“漬け込み型辛子明太子”を普及させたのが株式会社ふくやの創業者である川原氏ということらしい(「福岡県における製造業のローカルな経営戦略」今西・中谷2008年)。

株式会社ふくや

1970年代に明太子市場が一気に全国展開したのは山陽新幹線の開通が大きな機会となったと言われています。出張にきた関東圏・関西圏のサラリーマンのお土産品として重宝されたそうです。


●特徴

“漬け込み型辛子明太子”が普及したのは、川原氏がその製法をライセンス化せず無償で公開したからと言われています。製法どころか、調味料の仕入れ先を紹介し、保存のノウハウなど10年以上も開発してきて得た情報や無形資産を惜しげもなく同業者に公開したらしいです。

競合

資本を投入しても獲得することの難しい模倣困難な経営リソース(無形資産)を惜しげもなく提供するということは、ここまで大学院や中小企業診断士受験で学んできた”競争優位”の理論を全てひっくり返すような戦略となり狼狽してしまいます。しかし、オープンアーキテクチャという理論から捉えると、その戦略の全貌が見えてきました。

競争優位

このオープンアーキテクチャ戦略により市場は九州を中心に全国まで瞬く間に広がっていきました。今では市場規模1,200億円まで発展しています。

製法を公開したエピソードについて掘り下げていきます。

機会を得て売り上げが伸び始めた頃にふくやの社員たちは、「商標登録や製法特許を取るべきだ」と訴えたらしいです。

それに対して川原氏は、「そんな必要はない」と即答したらしいです。

漬物を引き合いに出し「漬物にはさまざまな味がある。同じ大根でも白菜でも、漬け方ひとつで味は変わる。家庭ごとでも味が違う。そんな漬物に商標はあるか? 製法特許はあるか? 明太子だって誰が作ってもいいではないか」と説いたとのこと。この川原氏の方針で、一種の産業クラスターが起こり、地域ブランドが確立されたのではないでしょうか。


●オープンアーキテクチャのメリット

次に辛子明太子の事例で、オープンアーキテクチャのメリットを論じていきます。

まず、“漬け込み型辛子明太子”の製法やノウハウを無償で公開することで、単純にプレイヤーが増えていきます。プレイヤーが増えることは市場の拡大を意味します。全国的な有名店も複数ありますが、九州で有名な事業者も多くいることが分かります。マーケを担当していると痛いほど身に沁みますが、新しい市場を創造するには認知活動コストと時間的コストが大きな負担になります。そのコストパフォーマンスを考慮すると参入障壁を無くしプレイヤーを増やすというのはマーケ戦略的に有効と言えるのではないでしょうか。

マーケティング

次に、プレイヤーが増えることで“知識の結実”が見受けられたことをメリットにあげます。

先にも述べたように味自体はインテグラル化され独自の歴史的背景に基づくもので、プレイヤーが独自性を出すことで競争の原理が働きプロセスイノベーションが起きていると言えます。

イノベーション

●オープンアーキテクチャのデメリット

次に辛子明太子の事例で、オープンアーキテクチャのデメリットを論じていきます。

フリーライド(ただ乗り)する模倣企業は、開発コストを負担することなく市場に参入できてしまうことでしょう。

“漬け込み型辛子明太子”についても当然同様の現象が起こった、というより川原氏は意図的にフリーライドを歓迎したのではないでしょうか。デメリットを逆手に取る意図があったのです。“元祖ふくや”として既に全国的にもブランドが認知されているため、オープン化戦略の課題「どこから利益が出るか」について戦略的に明確となっていました。


●まとめ

最後に元祖ふくやの今後の課題について考察しています。

デザイン経営の効果

オープンアーキテクチャ戦略での懸念事項としては、

コモディティ化と価格競争

があげられます。

市場が成熟しているところからもコモディティ化は進んでしまっていることわ分かりました。しかし、元祖ふくやでは先にも述べた通り高級路線への研究開発に積極投資を起こっています。また、贈答用、減塩タイプなど市場のニーズや環境変化に合わせた製品戦略を取っていることも今回の調査で分かりました(プロダクトイノベーション)。

つまり、コモディティ化と価格競争への対策は戦略的に実行されている。

対策

ただ、今後の課題について気になる点が一つありました。

広報(SNS)対策が進んでいないところが今回の調査で分かりました。例えばTwitterをご覧いただくと分かりますが、アビスパ福岡の公式アカウントかと見まがうほど統一性がなく“元祖ふくや”としてのブランド認知のために活用されている状況ではありませんでした。

オープンアーキテクチャ戦略のメリットとデメリットを把握したうえで、組織的な広報戦略(SNS戦略)を立てる必要があると考えます。

以上

破壊的イノベーションとオーバーシューティング

イノベーション

大学院(MBA)で、破壊的イノベーションの成功事例としてパーク24社を取り上げました。時間貸し駐車場市場におけるイノベーションを、時間軸で論じています。その課題の要点をまとめて3分で読めるボリュームに要約しました。
●キーワード

破壊的イノベーション/オーバーシューティング/駐車場ビジネス/連続的イノベーション

———-index————-

①はじめに

②昭和の時間貸し駐車場

③平成の時間貸し駐車場

④令和の時間貸し駐車場

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①はじめに

「時間貸し駐車場ビジネス」を題材に、破壊的イノベーションとオーバーシューティングについて、昭和、平成、令和という元号(時間軸)で論じています。

パークロックシステムを利用した24時間無人の時間貸し駐車場「タイムズ」を展開するパーク24社は、これまでの時間貸し駐車場の概念を根底から覆すサービスで市場に現れて、瞬く間に市場を独占した企業です。

パーク24

しかし、今まさに次の時代の破壊的イノベーションが忍び寄る私は見立てた仮説を立てました。

有人駐車場(昭和)から無人駐車場(平成)へ、そして次の「新しい概念の時間貸し駐車場(令和)」まで3世代に渡るオーバーシューティングと破壊的イノベーションについて調査しました。

●昭和の時間貸し駐車場

昭和の時間貸し駐車場の特徴は、

・管理人が駐在すること

・料金体制が時間割りより日割りであること

・営業時間が限定的であること

にあると言えます。

それ以外のサービスとしては、パーキングメーターという無人の駐車場が登場します。60分という制限があり60分を超えると違法駐車になるため、決して使い勝手の良いサービスとは言えないのかもしれません。このように昭和の駐車場サービスの主流は有人駐車場であったことが分かりました(akippa株式会社調べ)。

駐車場ビジネス

●平成の時間貸し駐車場

平成に入り突如現れたパーク24社、彼らが提供した駐車場サービスの特徴は、

・無人

・時間割で低価格

・24時間365日

にあると言えます。

環境変化の恩恵を受け著しい成長曲線を描き1999年には上場まで果たしてしまいます。

環境変化の恩恵とは、

  • バブル崩壊後の不景気のなか土地活用で悩む投資家に対し、固定的な安定収入を提供できるサービスであったこと
  • 法改正があり路上駐車の取り締まりが急激に強化されたためドライバーにとって駐車場が必要不可欠になったこと

です。

革新的なサービスを安価で提供できたうえに環境変化にも恵まれたパーク24社は、平成においてそのシェアを84.1%にまであげていきました。

急成長

パーク24社は、駐車している間に洗車をしてくれるサービスなど継続的なイノベーションを実施しているが、もしかするとオーバーシューティングでイノベーションのジレンマに陥るかもしれない。

令和の破壊的イノベーションの足音が聞こえ始めている。

※オーバーシュートについてはこちら(神戸大MBA)

≪一部抜粋≫

経営学やマーケティング論において「オーバーシュート」とは、メーカーが顧客の望んでいる以上の品質や性能の製品を開発して市場に出してしまうことであり、日本企業による「過剰品質」「過剰仕様」を指摘する場合などでよく用いられる。

●令和の時間貸し駐車場

最近目にするようになったのが、無人・無ロック、の時間貸し駐車場です。私の自宅付近だけでも2か所ありますし、令和3年現在では餃子の無人販売所が流行していますね。古くは田舎の野菜無人販売所に見られる信用のうえに成り立つビジネスモデル、利用者のリスクと事業者のコストの塩梅が見られる日本ならではのビジネスモデルと言えるのではないでしょうか。

信用

この無人・無ロック駐車場は、精算機が1台あるだけでロック版がない状態でサービスを提供しています。つまりその特徴は、

・イニシャルコストを削減できるため地主のリスクを軽減できること

・提供価格が通常のコインパーキングより非常に安いこと

にあると言えます。

その他にもCtoCで駐車場を時間貸しするプラットフォームを作ったakippa社なども顧客同士の信頼と信用のうえに成り立つビジネスであり、貸主と借り手の新しい価値観で市場が成り立ち始めています。

今のところ破壊的イノベーションが起きているとまでは言えないが、DXが進む令和の時代に何か起こりえる可能性は高いと感じています。

以上

アート思考とデザイン経営

アート思考

この投稿は、デザイン思考と対比的に捉えられるアート思考について論じた部分の要約になります。

戦略デザイナー森田昌希のビジネスレビュー

中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」の要約⑥になります。

森田昌希プロフィールついてはこちら

●キーワード

デザイン経営/アート思考/デザイン思考/VUCA/両利きの経営/イノベーションのジレンマ/連続的イノベーション/破壊的イノベーション

●時代背景

VUCAやコト消費など、経営をとりまく環境が著しく変化したことにより、顧客へ提供する価値の基準が変化したことは要約②で述べました。
デザイン経営がなぜ競争力になるのか?

過去の実績や定量データをベースにした科学的なアプローチや論理的なアプローチでは、皆が同じ解にたどり着くため差別化(競争力)につながらなくなったと言われています(コモディティ化)。

計数管理

その中で注目を浴びているのがデザイン経営なんですが、

その根底にあるデザイン思考と並べて論じられるアート思考という思考プロセスがあるので簡単にご紹介します。

●アート思考とデザイン思考の違い

その違いは、主に2つあると解釈しました。

  • ユーザーとの距離感
  • 産み落とすイノベーションの種類

デザイン思考は「You&I」で、Youを観察しますが顕在ニーズを参考にしません。観察するだけで、「 I 」が潜在ニーズを仮説と検証を繰り返すことで浮き彫りにしていくプロセスです。

アート思考は「 I 」でアウトプットを生み出します。ユーザーを観察もしなければ、ユーザー側にあるニーズを考慮しません。我が道を突き進みます。論文ではユーザーとの距離感という言葉でその違いを表現しました。

アート思考


産み落とすイノベーションの種類について、

  • デザイン思考は、連続的(漸進的)イノベーション
  • アート思考は、非連続的(破壊的)イノベーションゴール

この点が異なると私は解釈しています。

(※両方とも破壊的イノベーションを生むと唱える研究もあります)

破壊的イノベーション

そして、この2つの思考プロセスは何かと対比的に語られることが多いんですね。

しかし、私は以下の視点を忘れないようにしています。それは、

  • どちら良い悪いという議論は不要
  • どちらが時代に合っているかという議論は不要

それぞれの企業に必要なイノベーションに応じて思考プロセスを採用することが重要です。もし破壊的イノベーションを求めるのであれば、そのプロセスはアート思考を選択すれば良いんです。

両利きの経営

余談ですが、連続的イノベーションを深化、非連続的イノベーションを探索と捉えると、デザイン思考とアート思考の使い分けが両利きの経営(O’Reilly Charles A.とTushman Michael L.2016)の実践につながるとも私は考えています。

●アート思考とデザイン経営

アート思考のものづくり

延岡氏は、アート思考は顧客や時代に迎合する必要はなく信念や哲学を表現するものづくりであると冒頭で論じています(「アート思考のものづくり」延岡,2021,p.22.)。

ただ、その続きとして、「顧客の経験価値を融合されることで新次元の価値へ昇華させることができる」とも言っています。

アートとアート思考の経済的な違いはここにあると私は解釈しました。

(間違っていたらすいません)

ゆえに、デザイン経営の論文にアート思考のパートを挿入しました。

ユーザーとの距離は遠いけれど、市場に受け入れられることに価値基準を置いている思考方法で、そのアウトプット自体は独自性(ブランド)の確立そのものであると考えたからです。

アート思考

デザイン経営のベースとなる思考プロセスは複数あり、

その選択肢は企業規模や扱うプロダクトによって異なることが分かってきました。

求めるゴールを明確にする。

そして、そのゴールへのプロセスを選択する。

その道順でデザイン経営の導入を進める必要がありそうです。

~続く「デザイン経営の成功事例」~

創造的な成果を出し続ける企業の組織マネジメント~面白法人カヤック~

面白法人カヤック

株式会社カヤックは、神奈川県鎌倉市に本社を置くWeb制作・企画・運営会社です。

面白法人カヤックというのは通称なのですが、「面白法人」という寒すぎる枕詞を浸透させきったのが先ず凄いですね。

深夜のノリで決めたとしても翌朝冷静になるケースだと思うのですが、深夜のノリのまま押し切ったという感じでしょうか。

何かと成果物に目を向けがちのカヤックですが、組織マネジメントの側面からアプローチした結果です。大学院(MBA)で提出した課題を、要点だけをまとめて3分で読めるボリュームに要約しました。

———-index————-

①はじめに

②面白法人カヤック

③人事面

④組織面

⑤まとめ


①はじめに

鎌倉に本社をかまえる面白法人カヤックのマネジメント手法について論じる。

直近バズった創造的な成果としては、うんこだけをテーマにした日本初のエンターテインメント施設であるうんこミュージアムや、販売開始から1週間で販売本数5万本を突破したNintendo Switch​『スーパー野田ゲーPARTY』がある。

うんこミュージアム

これらの創造的な成果を定期的に世に送り出す面白法人カヤックのマネジメント手法について調査した。

②面白法人カヤックについて

面白法人カヤックは、その独特な社風で著名である。

例えばサイコロを振って給料を決めたり、社員の似顔絵を描いた漫画名刺を使っているなど一般的な会社と比較すると尖がった文化を持つことからテレビ番組などで紹介されることも多い。

カヤックには大きく2つの事業部がある。ゲーム事業部とクリエイティブ事業部である。

クリエイティブ事業部の事業部長である阿部晶人氏にインタビューをして、継続的にクリエイティブを創造し続けるカヤックのマネジメント手法を人事面と組織面から炙り出す。

組織

③人事面

面白法人カヤックの経営理念は「つくる人を増やす」である。

カヤックの人間と名刺交換したことある方はご存じかもしれないが、全員が人事部に所属している。

これは全社員が採用権限を持っているため名刺に記載する所属部門は人事部になっている。

カヤック

商談相手であろうと協力会社であろうと「いつでも採用目線であなたを見ています」という意味で、カヤック従業員1人あたり2名まで社長面接直通権限を持っている。

「つくる人を増やす」ために人事面で非常に独特なルールを公式的に導入している。

この「つくる人を増やす」という経営理念によりクリエイティブな人材を流動的に抱え続けることができている。離職率の高さが問題になっているが、着実に「増やす」ことで「継続的に成果物を世に送り出す」ことに成功している。

ここからは阿部氏の主観になるが、応用力の高い人、変人、何か極めてる(極めたことがある)、やりたいことしかやらない、ような人を採用で重視しているとのことであった。

一般的な会社の採用基準を否定しているわけではなく、一般的な採用基準に加えて上記のような特異性を持つ人材が「継続的に成果物を出す」ことに必要なのかもしれない。

ではそのような人材をどのようにマネジメントする公式的な組織や文化があるのだろうか。

④組織

阿部氏の口から最初に出てきた言葉をそのままに書くと「ティール組織を目指しています」(※セルフマネジメント、ホールネス、存在目的)とのことであった。

イノベーション論での教えに沿うと一般的に「クリエイティブはマネジメントできない」し、そしてカヤックはクリエイターをマネジメントしようとしない。「セルフマネジメント(自主経営)」を象徴する言葉が阿部氏の口から矢継ぎ早に出てきた。

  • 基本やりたいことは上司がNG出しても勝手にやる
  • ブレストを大切にしている 皆で意見を出し合う
  • それが成功すれば会社も結果オーライ
  • 考え抜いた案を持ち寄るというよりその場の即興性を大切にする
面白法人カヤック

ただ一方で、「ホールネス(全体性の発揮)」と「組織の存在目的」を浸透させるため、全員社長合宿という名の社内研修を年に2回実施している。

その他で阿部氏の口から出てきた象徴的な言葉としては、

  • 新しい考えや技術をいち早く取り入れるスピード(古い組織はこれができないはず)
  • 面白い人を常に持っており、その人と仕事がしたいという動機付けがある
  • 面白い仕事があるから、ここで働くという動機付けがある
  • 会社のとある制度が面白いから この組織にいたいという動機付けがある
  • 鎌倉やオフィスが楽しい

非常に特徴的である。

⑤まとめ

「ティール組織が継続的にクリエイティブを創造する」という証明ができたわけではない。

しかし、面白法人カヤックはクリエイティブが自発的に生まれ続ける仕組みを意識的に構築している

このマネジメント手法は模倣困難性が高く、面白法人カヤックの競争力の源泉になっていることは火を見るよりも明らかである。

デザイン思考~デザイン経営~

デザイン思考

この投稿は、「デザイン思考とデザイン経営」についての要約です。

戦略デザイナー森田昌希のビジネスレビュー

中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」の要約④になります。

森田昌希プロフィールついてはこちら

●キーワード

デザイン経営/デザイン思考/デザインシンキング/共感/デザインドリブンイノベーション/戦略デザイナー

●デザイン思考は単なる手段

いきなり超重要なポイントです!

デザイン思考とは先天的な才能ではありません。

また、デザインセンスを持つ人だけが体得できる専門スキルでもありません。

デザイン思考は、全ての人が後天的に体得できる思考方法(単なる手段)に過ぎないんです。

デザインドゥーイング ⇒ 先天的なセンスが影響

デザインシンキング ⇒ 後天的な汎用スキル

●共感から始まるデザイン思考

デザイン思考は、ユーザーを観察し、ユーザーに共感し、ユーザーも気づいていない潜在的な課題に目を向けます。

デザイン思考

そして、課題と技術を結び付けたアウトプット(プロット)を出すところから始まり、

共感とアウトプットをアジャイル的に反復するのがデザイン思考です。

なので ”考え方” というより ”手段” に近いんですね。

起点がフレームワークや過去の実績や科学的根拠や機能的価値ではなく、

デザイン思考の起点はユーザーへの共感にあります

●ユーザー目線

良品計画の金井政明会長は、日経ビジネス(2019年2月20日号)の記事で次のように語っています。

無印良品のデザイン経営

「企業は天動説になってしまいます。自分の会社から世の中を見てしまいます。世間は自分たちの会社や商品を分かっていると思い込みたいし、思い込みます。」

ユーザー目線を企業が持つための(天動説を地動説に置き換えるための)機能の必要性を説いていらっしゃるんですね。

社内のボードメンバーが下すマーケティングや顧客志向による意思決定では、天動説(既存の尺度)の枠組みから出ることは難しい。

なので良品計画はアドバイザリーボードを置き、天動説に偏った意思決定を排除できる体制を整えているようです。

①デザイン思考を持たないボードメンバーによる意思決定からイノベーションは起きない

②ボードメンバーから降りてくるロジカルな意思決定による制約条件なかで、事業部によるデザインの意思決定からイノベーションは起きない

●デザイン思考による経営の意思決定

良品計画のように、デザイン思考による意思決定が事業部ではなく経営層にあるべきという先行研究をご紹介します。

TimBrown氏は、

今やデザインは思考プロセスとして上流に移りつつあるのだ

(Tim Brown(2009)CHANGE BY DESIGN、(邦訳 千葉敏生訳(2010)『デザイン思考は世界を変える』早川書房.p.18))

と著書で述べています。

事業部にあったプロダクトデザインという組織の機能から、デザイン思考による意思決定機関としてレイヤーが上がって重要度が高くなっています。

その理由は、デザイン思考によるデザイン経営が独自性(ブランド)と新しい市場価値(イノベーション)を創造し競争力の源泉になることが分かってきたからなんですね

デザインに携わる方にしてみれば「遅っ」と思われるでしょう(笑)。そもそもデザイン経営は過去数十年に言葉をかえて提唱されてきた概念でもあります。デザイン経営の歴史についてはネットを調べれば情報がたくさんあるので本稿では割愛します。

●デザインドリブンイノベーション

デザイン思考がイノベーションにつながった事例としてニンテンドーwiiの先行研究を紹介します。

『デザインドリブンイノベーション(以下DDI)』(ベルガンティ,2016)で、

枯れた技術に意味を付与する意味の価値、つまり“ゲームを楽しむ”から“運動する”価値転換(バリュートランスフォーメーション)により新しい市場を創造したイノベーションであると言っています。

ただし、起点を同じユーザーとしているが、

ユーザーの中でもYou(2人称)かPeople(3人称)かで少し異なると言われています。

森永氏は自著でデザイン思考とDDIとアート思考の起点について整理している(『デザイン、アート、イノベーション』同文館出版,2021)。

各概念の守備範囲の違い

さらに、「DDIは3人称のPeopleに注目した取り組みであり社会的に既に共有された意味を革新することで新しい価値を生む(中略)マクロな意味に注意が向く」(森永,2021,p.157.)とも言っています。

簡単な言葉に置き換えると、

①2人称か3人称か

②マクロかミクロか

という違いはあるものの重要なことは、

デザイン思考もDDIも、経営戦略の上流にあることがイノベーション視点からも捉えることができる

ということです。

●まとめ

デザイン思考とは、単なる手段やプロセスにしか過ぎない。デザイン思考に似た手段やプロセスは他にもあり、どうやらイノベーションの出発点になっている。

従って、経営の意思決定と直接的に関わる必要がある。

デザイン思考とイノベーションが切っても切り離せない関係にあることを次の投稿で要約します。

私のビジネスレビュー「中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」では、並んで論じられるアート思考デザインドリブンイノベーションなどと比較しながらデザイン思考を論じています。

次の投稿では、イノベーションについての研究結果を要約していきます。

~続く「デザイン経営とイノベーション」~

なぜデザイン経営が競争力の源泉になるのか

差別化と競争力
デザイン経営と差別化

戦略デザイナー森田昌希のビジネスレビュー

中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」の要約②になります。

森田昌希プロフィールついてはこちら

この投稿では「デザイン経営が競争力になる理由」についての要約です。

●キーワード

デザイン経営/デザイン思考/競争力/VUCA/ロジカルシンキング/コモディティ化/独自性/新しい市場価値/コト消費/付加価値/情緒的価値/戦略デザイナー

VUCA

最近よく聞きますよね、VUCA

Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)

これらの頭文字を並べた言葉で、元はアメリカの軍事用語です。

現在は今の時代を表す言葉として用いられビジネスシーンでのホットワードで、ビジネスを取り巻く環境変化が極めて不安定であることを端的に表しています。

VUCA
VUCA

経営の意思決定

これまでの経営は、意思決定が論理的に導かれてきました。

ロジカル思考
ロジカル思考

過去の成功体験や成功事例から科学的に未来を予測することで合理的な解(意思決定)を求めてきたし、それで結果が出てきたことも事実です。

しかし、過去のデータやノウハウを可能な限り標準化し、数字に裏打ちされた論理的な思考で求める解はVUCAの時代では切り札にならないと言われています。

論文で「※個人の感想です」は通用しませんので、しっかりと「誰が?」を明示しておきます。

デザイン思考の道具箱
奥出直人(2013)『デザイン思考の道具箱』早川書房

奥出(2013)さんは、

このような変化のなかで経営において利益あるいは利潤を生みだすものとされていた技術や知識が、もはや切り札にならない」(奥出,2013,p.44.)と言っています。

世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか
山口周(2017)『世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか? 』 光文社新書

山口(2017)さんは、

複雑化・不安定化した現環境で論理的思考による意思決定による戦いは困難を極める」(山口、2017)と言っています。

日経ビジネス
株式会社日経BP「日経ビジネス」(2021年5月

A・T・カーニー日本の梅沢高明会長(2021)は、

数字に裏打ちされた論理的な思考だけでは企業は新たな製品やサービス開発に対応できなくなった」(日経ビジネス,2021,5/30号)と言っています。

私の個人的な感想ではないことはご理解いただけましたでしょうか(笑)

デザイン経営の効果
デザイン経営の効果

このような環境下において、

デザイン経営による独自性(ブランド)と新しい市場価値(イノベーション)は競争力の源泉となるとデザイン経営宣言に書かれています。

当然これは中小企業に限ることではなくグローバルな大企業にも言えることです。

コト消費

もう一つの要因として、

モノを消費する時代からコトを消費する時代へ転換したことが大きいと言われています。

コト消費
コト消費

これは単なる消費行動の変化だけでなく、

企業が差別化するベクトルも一緒に変化したと言われています。

こちらも個人の感想ではありません(笑)

経営とデザインのかけ算
尾崎美穂(2020)『経営とデザインのかけ算』合同フォレスト

尾崎さんは自著のなかで(尾崎,2020)

「技術力の高さを伝えるだけでは消費者の購買意欲は湧きませんし、他社との差別化も難しくなります。商品やサービスに消費者が求める付加価値を与えて“選びたくなる理由”を作り出す必要があります」(尾崎,2020,p.21.)と言っています。

意思決定の変化“選びたくなる理由”が機能的価値から情緒的価値にシフトしたことは、

論理的思考で導かれた企業の意思決定と市場が結びつかなくなったと私も考えています。

デザイン思考から生まれるもの

「機能的な差別化はマネされやすい」

デザイン思考

この一言に全てが込められていると思いませんか?

機能的な尖がりは、独自性(ブランド)や新しい市場価値(イノベーション)にならない時代になりました。

A:5合のお米を40分でふっくら炊き上げる高機能炊飯器
B:あなたのキッチン空間に溶け込むバルミューダのデザイン炊飯器

Aの場合、

「じゃ弊社は、6合を35分で炊き上げる炊飯器を開発しよう!」

と目標設定が容易になります。

「目標設定が容易=意思決定しやすい」

意思決定

経営に関わる業務に就いたことがあると痛感しませんか?

定量的な判断材料で意思決定することが体の隅まで染み渡っているんです。

この意思決定は、競合が参入しやすい市場を形成していることに繋がるため、

短期的な価値になってしまいます。

一方Bの場合、

「バルミューダのデザインをパクろう」

とはなりづらいですよね。※非常識なメーカーを除く

デザイン思考によるデザイン経営

論理的意思決定経営→機能的な成果物→機能性優位による独自性や新市場価値→短期的な競争力


デザイン思考によるデザイン経営→情緒的な成果物→情緒的優位による独自性や新市場価値→長期的な競争力

デザイン思考から生まれるもの

デザイン経営が競争力になる理由は、

デザイン思考によるブランド創造やイノベーションの創出が模倣困難な競争力になるからです。

デザイン経営の競争力

不安定な経営環境や消費者の行動の変化のなか、

これまでの科学的アプローチによる効率的な経営手法やコスト削減による経営改善が通用しづらくなりました。

その視点にいち早く気付いた経営者は早くからデザイン経営を実践しています。

では、どうやればデザイン経営を導入できるのか。

私のビジネスレビュー

「中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」では、

先行研究をベースに方法論を論じています。

次の投稿では、その方法論について分かりやすく要約していきます。

~続く「企業の存在意義(パーパス)の設定」~