アート思考とデザイン経営

アート思考

この投稿は、デザイン思考と対比的に捉えられるアート思考について論じた部分の要約になります。

戦略デザイナー森田昌希のビジネスレビュー

中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」の要約⑥になります。

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●キーワード

デザイン経営/アート思考/デザイン思考/VUCA/両利きの経営/イノベーションのジレンマ/連続的イノベーション/破壊的イノベーション

●時代背景

VUCAやコト消費など、経営をとりまく環境が著しく変化したことにより、顧客へ提供する価値の基準が変化したことは要約②で述べました。
デザイン経営がなぜ競争力になるのか?

過去の実績や定量データをベースにした科学的なアプローチや論理的なアプローチでは、皆が同じ解にたどり着くため差別化(競争力)につながらなくなったと言われています(コモディティ化)。

計数管理

その中で注目を浴びているのがデザイン経営なんですが、

その根底にあるデザイン思考と並べて論じられるアート思考という思考プロセスがあるので簡単にご紹介します。

●アート思考とデザイン思考の違い

その違いは、主に2つあると解釈しました。

  • ユーザーとの距離感
  • 産み落とすイノベーションの種類

デザイン思考は「You&I」で、Youを観察しますが顕在ニーズを参考にしません。観察するだけで、「 I 」が潜在ニーズを仮説と検証を繰り返すことで浮き彫りにしていくプロセスです。

アート思考は「 I 」でアウトプットを生み出します。ユーザーを観察もしなければ、ユーザー側にあるニーズを考慮しません。我が道を突き進みます。論文ではユーザーとの距離感という言葉でその違いを表現しました。

アート思考


産み落とすイノベーションの種類について、

  • デザイン思考は、連続的(漸進的)イノベーション
  • アート思考は、非連続的(破壊的)イノベーションゴール

この点が異なると私は解釈しています。

(※両方とも破壊的イノベーションを生むと唱える研究もあります)

破壊的イノベーション

そして、この2つの思考プロセスは何かと対比的に語られることが多いんですね。

しかし、私は以下の視点を忘れないようにしています。それは、

  • どちら良い悪いという議論は不要
  • どちらが時代に合っているかという議論は不要

それぞれの企業に必要なイノベーションに応じて思考プロセスを採用することが重要です。もし破壊的イノベーションを求めるのであれば、そのプロセスはアート思考を選択すれば良いんです。

両利きの経営

余談ですが、連続的イノベーションを深化、非連続的イノベーションを探索と捉えると、デザイン思考とアート思考の使い分けが両利きの経営(O’Reilly Charles A.とTushman Michael L.2016)の実践につながるとも私は考えています。

●アート思考とデザイン経営

アート思考のものづくり

延岡氏は、アート思考は顧客や時代に迎合する必要はなく信念や哲学を表現するものづくりであると冒頭で論じています(「アート思考のものづくり」延岡,2021,p.22.)。

ただ、その続きとして、「顧客の経験価値を融合されることで新次元の価値へ昇華させることができる」とも言っています。

アートとアート思考の経済的な違いはここにあると私は解釈しました。

(間違っていたらすいません)

ゆえに、デザイン経営の論文にアート思考のパートを挿入しました。

ユーザーとの距離は遠いけれど、市場に受け入れられることに価値基準を置いている思考方法で、そのアウトプット自体は独自性(ブランド)の確立そのものであると考えたからです。

アート思考

デザイン経営のベースとなる思考プロセスは複数あり、

その選択肢は企業規模や扱うプロダクトによって異なることが分かってきました。

求めるゴールを明確にする。

そして、そのゴールへのプロセスを選択する。

その道順でデザイン経営の導入を進める必要がありそうです。

~続く「デザイン経営の成功事例」~

デザイン経営とイノベーション

イノベーション

この投稿は、デザイン経営の重要ワードであるイノベーションの種類を整頓し、イノベーションとデザイン経営の結節点を導く内容を要約したものです。

戦略デザイナー森田昌希のビジネスレビュー

中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」の要約⑤になります。

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デザイン経営

イノベーションという言葉は何かと便利に解釈されがちで、色んなイノベーションが散乱しています。

デザイン経営の要素であるイノベーションが、どんな種類のイノベーションなのか独自に掘り下げ、デザイン経営に通ずる結節点はどこかを論じています。


論文色を押さえきれず、読みやすく要約しきれませんでした。

実務寄りの情報を得たい方は飛ばしてもらってもOKです。

しかし、イノベーションとデザイン経営の結節点を世界一綺麗に整頓できたと思っています。手前みそですが相当面白い投稿になったと自負しています。

よろしければ最後までお読みください。10分程度で読める内容にまとめています。

●キーワード

デザイン経営/イノベーション/デザイン思考/ジョハリの窓/アート思考/イノベーションのジレンマ/戦略デザイナー

●イノベーション

デザイン経営宣言で、イノベーションは以下のように定義されています。

イノベーション
イノベーションの定義

イノベーションの本来の意味は、発明そのものではなく、発明を実用化し、その結果として社会を変えることだとされている。革新的な技術を開発するだけでイノベーションが起きるのではなく、社会のニーズを利用者視点で見極め、新しい価値に結び付けること、すなわちデザインが介在してはじめてイノベーションが実現する。

簡単に言うと、

イノベーションは発明そのものじゃなくて、デザインを介してユーザーが「欲しい!」とか「ステキ!」とか「斬新!」て感じるものに昇華させることです。

さらに、発明を伴う必要はなく、在りモノ同士の組み合わせでも良いんです。

また、物理的なモノじゃなくサービスやスキルでもOKなんです。

イノベーション

●イノベーションとデザイン思考

デザイン経営に通じるイノベーションとは、どんな種類のイノベーションなのか。イノベーションに関する先行研究を調べていると、デザイン思考との共通点が多いことが分かりました。

PFドラッカー氏の「イノベーションと企業家精神」では以下のようなことが書かれています。

イノベーションと企業家精神

「経済的な新しい価値を創造するイノベーションを起こす4つの手段のうち3つ(効用戦略、価値戦略、顧客戦略)がユーザー中心の考え方である」

(イノベーションと企業家精神,P.F.ドラッカー,1997,p.157.~172.)

この考え方自体はYou中心のマーケティングや顧客志向に引っ張られているところが強いが、デザイン思考とイノベーションが遠い存在ではないことが読み取れました。

また、有名なブルーオーシャン戦略ではこんなことが書かれています。

「ライバル企業を打ち負かすのではなく、買い手や自社にとっての価値を高め、競争のない未知の市場空間を開拓することによって競争を無意味にする」

(ブルーオーシャン戦略,キム・モボルニュ、2005、p.31.)

「買い手や自社にとっての価値を高め」はまさにYou&Iで競争を回避するという意味に解釈できます。よりデザイン思考に近いアプローチですね。

この論点では名著が山ほどあるので全てを引用できませんが、

「イノベーションはデザイン思考から生まれる」

と解釈してしまいそうな勢いです。しかし、そう単純なことでもないんです。

●デザイン思考と繋がらないイノベーション_その1

GE社イメルト氏の有名な事例です。

従来型のイノベーション創発に限界を感じ、研究所を本社から切り離しました。より市場に近い場所で、「観察と仮説と設計(デザイン)と検証」を繰り替えし、大企業でありながらも素早い意思決定でアウトプットが出せるプロジェクトを同時に80も走らせました。

本社主導は、マクロな目線でロジカルな技術発のイノベーションしか生まれない。

現場主導は、ミクロな目線でエモーショナルな市場発のイノベーションを生む。

「観察と仮説とデザインと検証」とはデザイン思考そのもので、

ミクロで市場発によるイノベーションのみがデザイン経営につながるイノベーションであるという結論を導けました。

●デザイン思考と繋がらないイノベーション_その2

厄介なことに、ユーザーイノベーションっていう種類のイノベーションまで存在していることが分かりました。

ミクロで、ユーザー起点のイノベーションという定義なので、=(イコール)デザイン思考かと思いましたが、分類してくださった先行研究を発見できたのが不幸中の幸いです。

デザイン、アート、イノベーション

「ユーザーを起点とする点では同じであるが、ユーザーイノベーションではユーザーの意識領域のなかにある課題に対する解決で、デザイン思考はユーザーの無意識領域のなかにある課題に対する解決である」

『デザイン、アート、イノベーション』,森永,2021,p.10.

ユーザーイノベーションは顧客志向やマーケティングに限りなく近く、顧客の顕在ニーズにアプローチした結果から生まれたイノベーションを指しています。

デザイン思考は、You&Iなので、Youの顕在ニーズを参考にしません。観察するだけです。(ちなみに後述するアート思考は観察さえしません。)

つまり、これをビジネス版ジョハリの窓で整頓すると以下のようになりました。

ジョハリの窓

盲点ではなく、未知の領域にアプローチするデザイン思考から起きるイノベーションが、デザイン経営の実践に繋がっていきます。

「デザイン思考とデザイン経営は別物である」という論点も多く見かけるのですが、入口と出口が遠いだけで繋がっている事実をイノベーションの先行研究から導きました。

デザイン思考とデザイン経営

●まとめ

  • YouじゃなくYou&Iで
  • マクロじゃなくミクロで
  • 技術発じゃなく市場発で
  • 盲点じゃなく未知の領域で

上記の要件を満たしつつユーザーが認識していないニーズを掘り起こすようなプロセスをデザイン思考と呼びます。

そこにあるニーズと、何かを結合したイノベーションによる成果物(製品、サービス、組織文化)がデザイン経営へのパスであると言えます。

デザイン経営

一方で、デザイン思考によるイノベーションは、連続的なイノベーションしか生まないという研究もあります。市場を根底から覆し、経済的な市場価値が最も高いとされる破壊的イノベーションはデザイン思考からは生まれないと言われています。

イノベーションのジレンマ

破壊的イノベーションは容易ではなりません。その理由は、破壊的イノベーションを組織的に創造する(再現性の問題)ことを誰も実践していないからです。

なぜ組織的に創造できないか、それはイノベーションのジレンマという有名な現象ですね。

しかし少し脱線しましたが、ここまでの思考プロセスを整頓すると以下のようになります。

デザイン思考の整理

ここまで来るとアート思考にも触れざるを得ません。次の投稿では、アート思考についての要約します。デザイン思考との違いや、紐づくイノベーションの違いを論じています。

~続く「アート思考とデザイン経営」~

~獺祭~旭酒造の競争力をデザイン経営の視点から分解

獺祭

~獺祭~旭酒造のデザイン経営

獺祭で有名な旭酒造は、マーケティングやイノベーションや地方創生の視点で論じられることが多いですよね。先行研究にも良く取り上げられています。

旭酒造のWEBサイトはこちら

大学院のケーススタディでは頻出企業でした(笑)。

本稿では、少しレイヤーをあげてデザイン経営の視点で旭酒造の競争力を分解してみました。

デザイン経営の論文要約はこちら

パーパス ⇒ デザイン経営 = ブランド × イノベーション

獺祭のブランド × 獺祭の新しい市場価値(生産と流通)に置き換え、

それぞれレビューしていきます。

要点だけをまとめて5分で読めるボリュームに要約しました。

デザイン経営の効果
デザイン経営の効果

———-index————-

①旭酒造のパーパス

②獺祭のブランド

③獺祭の新しい市場価値_生産&流通

④まとめ

——————————

①旭酒造のパーパス

『酔うため、売るための酒ではなく、味わう酒を求めて。』

旭酒造のパーパス

やはり二人称で掲げられていました。

企業にとって「売るための酒ではなく、味わう酒」であり、

お客様にとって「酔うためではなく、味わう酒」であります。

まさに共感ベース(YouだけでなくYou&I)で礎が打ち込まれています。

※私の研究では2人称はYouではなくYou&Iになりますが、3人称のWeとは区別しています

  • I    =アート思考⇒創造の手段
  • You   =顧客志向(マーケ2.0まで)⇒顕在ニーズを満たす手段
  • You&I =デザイン思考⇒潜在的問題解決の手段
  • We =社会思考(DDIなど)

②獺祭のブランド

●2割3分の純米大吟醸

獺祭

「味わう酒」を追求するとここまで磨くことになります。

つまり原価が高騰します(通常の純米大吟醸が5割)。

新しい顧客が新しい体験をするために必要なコストであるという経営判断をしたんですね。

「You&I」と言うより「I」が強め、アート思考よりでかなりのギャンブルですね(笑)。

●希少性

ブランドコントロールのためなど様々な理由はありますが卸を介さないことが希少性に繋がりました。

しかし、生産戦略の視点から疑問が残ります。1000本の需要に対し10本しか生産できないことは機会損失が大きすぎます。1000本の需要に対し999本生産したいところです。希少性と機会損失のバランスは本当に難しいですね。

●その他

  • 「杜氏の新たな雇用形態」
  • 「火入れなど他社が模倣困難な製法」
  • 「属人化させない製法」
  • 「ワインがライバル」
  • 「海外でもローカライズしない」

など常識を覆した弱小酒蔵としてメディアが取り上げ続けたことが最もブランド構築に役立ったのではないでしょうか。中小企業でも広報PRが重要な事例と思います。

中小企業のPR

③獺祭の新しい市場価値

●生産のイノベーション

杜氏の暗黙知やノウハウなど属人的な製法を可能な限り止め、計数管理による生産の見える化を実現させました。日本酒の製法におけるイノベーションですね。学術的に見ても、組織の5原則である専門性の発揮や、模倣困難性、支える組織もしっかり設計されています(VRIO)。

計数管理

●流通

・直販

決定的なイノベーションは卸を排除し酒屋への直販体制を敷いたことです。

田舎の弱小酒蔵が、並々ならぬ営業努力により、獺祭会という直販体制を構築しました。

直販

直販体制を敷く必要があった理由は、価格統制、ブランド維持、エンドユーザーの声、を重視したからだそうです。

・いきなり東京

地産地消という酒蔵と顧客にとっての当たり前を排除し、いきなり東京進出しています。地元を懐かしむ東京在住の山口の方がイノベーターとなり、アーリーアダプターを巻き込みキャズムを乗り越えています。

流通と消費行動の2つの意味でのイノベーションですね。

マーケティング

また、直販により顧客との距離感が縮まったため顧客の消費行動をダイレクトに収集することができました。

その結果、STPで新しい消費行動による市場を見つけたんですね。

具体的には、新しいターゲット(若者&女性)と新しい消費行動(洋食店で日本酒)です

女性とお酒

④まとめ

以上より、ブランドとイノベーションにより競争力を得た獺祭は大きな市場を見つけ、先行者優位による強いロイヤルティも獲得しました。知名度のない田舎の弱小酒蔵でも、デザイン経営で東京や世界へ飛び出すことができたわけです。

海外進出


ここからは補足ですが、上記までの内容をもっと学問的にまとめました。

ご興味ある方は是非お読みください。


~続き~

日本酒の市場がシュリンクを続けるなかで(環境変化)、

①をベースに②と③の強みを生かし(模倣困難な組織と体制を構築)、

競争力を高めた(マーケティング)事例と言えます。

●国内マーケティング

誰と:

獺祭会に属す既存の酒屋と

誰に:

ワインバーなど通常日本酒を置かない飲食店に

何を:

和食以外にも合う磨き率の獺祭を

どのように: 

①旭酒造の営業担当と酒屋が、地域の飲食店情報をベースに新規開拓戦略を実施することで上記ターゲットを見つけ出す。

②日本酒が好きな玄人ではなく、食事前のおつまみと一緒に少量のお酒を健康的に楽しむ方や、美味しい食事を楽しむ一般の方に獺祭が合うことを酒屋と共に店頭訪問しブランド認知度も絡めて訴求する(プッシュ)。 

③可能な範囲で社長がメディアに露出する際に、獺祭の新しい楽しみ方、つまり酒自体を味わうのではなく食事を楽しむ(モノ消費ではなくコト消費)ことをパブリシティに載せる(プル)。 

④成功事例や導入事例を他地域で横展開させる。

効果:

以上により、新しい市場へのTPを作り、売上数量を増加させ、酒屋との関係性強化を図ることで代理店の定着率と代理店のレベルの高さを担保した。

そして、社長の想い「美味しいお酒を新しいお客様に届ける」ことを実現させた(アンゾフ市場開拓)。

●海外マーケティング

誰に:

海外の展示会で新しく接する海外代理店に

何を:

ローカライズしない日本らしい純米大吟醸である獺祭を

どのように(展示会では):

①純米大吟醸の価値を訴求する。

②酒自体を楽しむのではなく、食事と楽しむコト消費型の日本酒であることを訴求する。

どのように(契約後は):

①日本で実施している勉強会や営業担当者と酒屋での密なコミュニケーションにより、商品情報や知識やロイヤルティなど販売店の品質を国内同様に担保する。

②一定のレベルを担保した代理店と限定的に取引を行う。

効果:

以上により、海外という新市場を開拓することで、売上数量を増加させ代理店との関係性を強化した。

また、日本の獺祭会のような組織的な販売チャネルを海外でももつことで、獺祭というブランドを海外でも国内と同様に担保した。

そして、社長の想い「日本らしい香りと味の美味しいお酒を海外のお客様にも届ける」ことを実現させた(アンゾフ市場開拓)。

最後は何だか診断士の筆記試験の解答のようになってしまいましたね(笑)。

おわり

デザイン思考~デザイン経営~

デザイン思考

この投稿は、「デザイン思考とデザイン経営」についての要約です。

戦略デザイナー森田昌希のビジネスレビュー

中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」の要約④になります。

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●キーワード

デザイン経営/デザイン思考/デザインシンキング/共感/デザインドリブンイノベーション/戦略デザイナー

●デザイン思考は単なる手段

いきなり超重要なポイントです!

デザイン思考とは先天的な才能ではありません。

また、デザインセンスを持つ人だけが体得できる専門スキルでもありません。

デザイン思考は、全ての人が後天的に体得できる思考方法(単なる手段)に過ぎないんです。

デザインドゥーイング ⇒ 先天的なセンスが影響

デザインシンキング ⇒ 後天的な汎用スキル

●共感から始まるデザイン思考

デザイン思考は、ユーザーを観察し、ユーザーに共感し、ユーザーも気づいていない潜在的な課題に目を向けます。

デザイン思考

そして、課題と技術を結び付けたアウトプット(プロット)を出すところから始まり、

共感とアウトプットをアジャイル的に反復するのがデザイン思考です。

なので ”考え方” というより ”手段” に近いんですね。

起点がフレームワークや過去の実績や科学的根拠や機能的価値ではなく、

デザイン思考の起点はユーザーへの共感にあります

●ユーザー目線

良品計画の金井政明会長は、日経ビジネス(2019年2月20日号)の記事で次のように語っています。

無印良品のデザイン経営

「企業は天動説になってしまいます。自分の会社から世の中を見てしまいます。世間は自分たちの会社や商品を分かっていると思い込みたいし、思い込みます。」

ユーザー目線を企業が持つための(天動説を地動説に置き換えるための)機能の必要性を説いていらっしゃるんですね。

社内のボードメンバーが下すマーケティングや顧客志向による意思決定では、天動説(既存の尺度)の枠組みから出ることは難しい。

なので良品計画はアドバイザリーボードを置き、天動説に偏った意思決定を排除できる体制を整えているようです。

①デザイン思考を持たないボードメンバーによる意思決定からイノベーションは起きない

②ボードメンバーから降りてくるロジカルな意思決定による制約条件なかで、事業部によるデザインの意思決定からイノベーションは起きない

●デザイン思考による経営の意思決定

良品計画のように、デザイン思考による意思決定が事業部ではなく経営層にあるべきという先行研究をご紹介します。

TimBrown氏は、

今やデザインは思考プロセスとして上流に移りつつあるのだ

(Tim Brown(2009)CHANGE BY DESIGN、(邦訳 千葉敏生訳(2010)『デザイン思考は世界を変える』早川書房.p.18))

と著書で述べています。

事業部にあったプロダクトデザインという組織の機能から、デザイン思考による意思決定機関としてレイヤーが上がって重要度が高くなっています。

その理由は、デザイン思考によるデザイン経営が独自性(ブランド)と新しい市場価値(イノベーション)を創造し競争力の源泉になることが分かってきたからなんですね

デザインに携わる方にしてみれば「遅っ」と思われるでしょう(笑)。そもそもデザイン経営は過去数十年に言葉をかえて提唱されてきた概念でもあります。デザイン経営の歴史についてはネットを調べれば情報がたくさんあるので本稿では割愛します。

●デザインドリブンイノベーション

デザイン思考がイノベーションにつながった事例としてニンテンドーwiiの先行研究を紹介します。

『デザインドリブンイノベーション(以下DDI)』(ベルガンティ,2016)で、

枯れた技術に意味を付与する意味の価値、つまり“ゲームを楽しむ”から“運動する”価値転換(バリュートランスフォーメーション)により新しい市場を創造したイノベーションであると言っています。

ただし、起点を同じユーザーとしているが、

ユーザーの中でもYou(2人称)かPeople(3人称)かで少し異なると言われています。

森永氏は自著でデザイン思考とDDIとアート思考の起点について整理している(『デザイン、アート、イノベーション』同文館出版,2021)。

各概念の守備範囲の違い

さらに、「DDIは3人称のPeopleに注目した取り組みであり社会的に既に共有された意味を革新することで新しい価値を生む(中略)マクロな意味に注意が向く」(森永,2021,p.157.)とも言っています。

簡単な言葉に置き換えると、

①2人称か3人称か

②マクロかミクロか

という違いはあるものの重要なことは、

デザイン思考もDDIも、経営戦略の上流にあることがイノベーション視点からも捉えることができる

ということです。

●まとめ

デザイン思考とは、単なる手段やプロセスにしか過ぎない。デザイン思考に似た手段やプロセスは他にもあり、どうやらイノベーションの出発点になっている。

従って、経営の意思決定と直接的に関わる必要がある。

デザイン思考とイノベーションが切っても切り離せない関係にあることを次の投稿で要約します。

私のビジネスレビュー「中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」では、並んで論じられるアート思考デザインドリブンイノベーションなどと比較しながらデザイン思考を論じています。

次の投稿では、イノベーションについての研究結果を要約していきます。

~続く「デザイン経営とイノベーション」~

企業のパーパス~デザイン経営の起点~

パーパス経営

この投稿は、「企業のパーパスとデザイン経営」についての要約です。

戦略デザイナー森田昌希のビジネスレビュー

中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」の要約③になります。

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●キーワード

デザイン経営/デザイン思考/パーパス/2人称/西川株式会社/マーケティング2.0/Better by Desing/考えのデザイン/ダイソン/戦略デザイナー


●デザイン経営とパーパスの先行研究

デザイン経営を導入する方法論についての先行研究に触れておきますね。

デザイン経営宣言政策策定委員会の永井さん(2021)によると、

これからのデザイン経営

デザイン経営とは、企業のパーパスを定め、それを起点とした組織文化を構築し、新たな価値を創造し続ける経営手法です

(永井一史『これからのデザイン経営』クロスメディアパブリッシング,p.4.)

また、

パーパスとは、デザイン経営の中心であり組織の指針であるとされているものであり、パーパスを見定め、それを起点とした組織文化を構築し、新たな価値を創造し続ける手法、それがデザイン経営なのです

(永井一史『これからのデザイン経営』クロスメディアパブリッシング,p.65.)

パーパス経営
パーパスとデザイン経営概念図(出所:永井(2021)p.64.より引用)

デザイン経営とパーパスについての先行研究を片っ端から調べましたが、

最もシンプルで分かり易い解説だったのが永井さんの著書でした。

●パーパスって?

ではビジョンや理念とパーパスは何が異なるのでしょうか?

ビジョンや理念は、企業のあるべき姿を企業の目線(1人称)で言語化したもの。

パーパスは、企業が社会に存在する理由や意義を企業と顧客の目線(2人称)で言語化したもの。

共感

この2人称の概念が後述するデザイン思考そのものであり、デザイン経営の源泉であると考えています。

●事例紹介~西川株式会社~

デザイン思考により独自性(ブランド)と新しい市場価値(イノベーション)が創造される一連の活動がパーパス起点になっている事例を紹介します。

西川株式会社

老舗の寝具メーカー西川株式会社は2019年の再統合を機に「よく眠り、よく生きる」というパーパスを掲げました

“寝具を製造して販売する企業”から、外部と提携しながら良質な睡眠を提供して人々の健康を支える “睡眠ソリューションの企業”へと変貌しました。

京都で400年以上の歴史を持つ老舗企業のリブランディングから、新しい市場価値を創造するイノベーションへと繋がったこの成功事例はパーパスが起点となったデザイン経営であることが分かります。

ここで重要なのは、パーパスとは1人称ではなく2人称から成り立つということです。

では、マーケティング2.0などに代表される顧客志向とデザイン経営におけるパーパスの違いってなに?

これを考えるうえで外せないのがデザイン思考というアプローチ方法です。

●デザイン思考

Better by Desingという言葉をご存じですか?

デザイン思考

デザインとは成果物を指すのではなく、

方法論であるとの考え方です。

この方法論がデザイン経営のベースにある

デザイン思考です。

製品は「カタチのデザイン」で、その製品がなぜ必要なのかは「考えのデザイン」とすると、これは製品だけでなく組織や文化も参照します。

どうやって製品をお届けするのか、どうやって製品を製造するのか、

なぜこの製品を創るのか、なぜこの組織が存在しているのか、

ブランドや企業が存在する意義を考えた結果の成果物になります。

パーパス経営

パーパスを起点として、考え(組織文化)とカタチ(価値創造)の両輪をデザイン思考というエンジンで回していきます。

具体的には、アジャイル型の開発スタイルでプロットを多く制作し、考えのデザインとカタチのデザインを行ったりきたりすることが重要と言えるのではないでしょうか。

その代表的なエピソードがダイソンです。

ダイソン
アート思考のものづくり

延岡さん(2015)によると

「筆者が調べた時点で英国本社の650人のエンジニアのうち、約400人がデザインエンジニアであった」

(延岡健太郎(2021)『アート思考のものづくり』日本経済新聞出版、p.86.)

一世風靡した吸引力の衰えない掃除機を世に送り出す前に制作したプロット数は5,000台を超えていると言われています。

“吸引力”という機能以外も追求し続けるBetter by Desingなデザイン思考が、

独自性と新しい市場価値を創造したデザイン経営の成功事例です。


●まとめ_デザイン経営とパーパス

デザイン経営は、その起点となるパーパスを抽出&具体化するところからスタートします。

パーパス経営

デザイン思考により、ステークホルダーとの共感をベースに、

①内で文化を醸成

②外で価値を創造

をアジャイル方式でブラッシュアップしていきます。パーパスが言語化されていくでしょう。

では、全てのベースとなるデザイン思考とは?

私のビジネスレビュー

「中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」では、

並んで論じられるアート思考デザインドリブンイノベーションなどと比較しながらデザイン思考を論じています。次の投稿では、デザイン思考についての研究結果を要約していきます。

~続く「デザイン思考とデザイン経営」~

なぜデザイン経営が競争力の源泉になるのか

差別化と競争力
デザイン経営と差別化

戦略デザイナー森田昌希のビジネスレビュー

中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」の要約②になります。

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この投稿では「デザイン経営が競争力になる理由」についての要約です。

●キーワード

デザイン経営/デザイン思考/競争力/VUCA/ロジカルシンキング/コモディティ化/独自性/新しい市場価値/コト消費/付加価値/情緒的価値/戦略デザイナー

VUCA

最近よく聞きますよね、VUCA

Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)

これらの頭文字を並べた言葉で、元はアメリカの軍事用語です。

現在は今の時代を表す言葉として用いられビジネスシーンでのホットワードで、ビジネスを取り巻く環境変化が極めて不安定であることを端的に表しています。

VUCA
VUCA

経営の意思決定

これまでの経営は、意思決定が論理的に導かれてきました。

ロジカル思考
ロジカル思考

過去の成功体験や成功事例から科学的に未来を予測することで合理的な解(意思決定)を求めてきたし、それで結果が出てきたことも事実です。

しかし、過去のデータやノウハウを可能な限り標準化し、数字に裏打ちされた論理的な思考で求める解はVUCAの時代では切り札にならないと言われています。

論文で「※個人の感想です」は通用しませんので、しっかりと「誰が?」を明示しておきます。

デザイン思考の道具箱
奥出直人(2013)『デザイン思考の道具箱』早川書房

奥出(2013)さんは、

このような変化のなかで経営において利益あるいは利潤を生みだすものとされていた技術や知識が、もはや切り札にならない」(奥出,2013,p.44.)と言っています。

世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか
山口周(2017)『世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか? 』 光文社新書

山口(2017)さんは、

複雑化・不安定化した現環境で論理的思考による意思決定による戦いは困難を極める」(山口、2017)と言っています。

日経ビジネス
株式会社日経BP「日経ビジネス」(2021年5月

A・T・カーニー日本の梅沢高明会長(2021)は、

数字に裏打ちされた論理的な思考だけでは企業は新たな製品やサービス開発に対応できなくなった」(日経ビジネス,2021,5/30号)と言っています。

私の個人的な感想ではないことはご理解いただけましたでしょうか(笑)

デザイン経営の効果
デザイン経営の効果

このような環境下において、

デザイン経営による独自性(ブランド)と新しい市場価値(イノベーション)は競争力の源泉となるとデザイン経営宣言に書かれています。

当然これは中小企業に限ることではなくグローバルな大企業にも言えることです。

コト消費

もう一つの要因として、

モノを消費する時代からコトを消費する時代へ転換したことが大きいと言われています。

コト消費
コト消費

これは単なる消費行動の変化だけでなく、

企業が差別化するベクトルも一緒に変化したと言われています。

こちらも個人の感想ではありません(笑)

経営とデザインのかけ算
尾崎美穂(2020)『経営とデザインのかけ算』合同フォレスト

尾崎さんは自著のなかで(尾崎,2020)

「技術力の高さを伝えるだけでは消費者の購買意欲は湧きませんし、他社との差別化も難しくなります。商品やサービスに消費者が求める付加価値を与えて“選びたくなる理由”を作り出す必要があります」(尾崎,2020,p.21.)と言っています。

意思決定の変化“選びたくなる理由”が機能的価値から情緒的価値にシフトしたことは、

論理的思考で導かれた企業の意思決定と市場が結びつかなくなったと私も考えています。

デザイン思考から生まれるもの

「機能的な差別化はマネされやすい」

デザイン思考

この一言に全てが込められていると思いませんか?

機能的な尖がりは、独自性(ブランド)や新しい市場価値(イノベーション)にならない時代になりました。

A:5合のお米を40分でふっくら炊き上げる高機能炊飯器
B:あなたのキッチン空間に溶け込むバルミューダのデザイン炊飯器

Aの場合、

「じゃ弊社は、6合を35分で炊き上げる炊飯器を開発しよう!」

と目標設定が容易になります。

「目標設定が容易=意思決定しやすい」

意思決定

経営に関わる業務に就いたことがあると痛感しませんか?

定量的な判断材料で意思決定することが体の隅まで染み渡っているんです。

この意思決定は、競合が参入しやすい市場を形成していることに繋がるため、

短期的な価値になってしまいます。

一方Bの場合、

「バルミューダのデザインをパクろう」

とはなりづらいですよね。※非常識なメーカーを除く

デザイン思考によるデザイン経営

論理的意思決定経営→機能的な成果物→機能性優位による独自性や新市場価値→短期的な競争力


デザイン思考によるデザイン経営→情緒的な成果物→情緒的優位による独自性や新市場価値→長期的な競争力

デザイン思考から生まれるもの

デザイン経営が競争力になる理由は、

デザイン思考によるブランド創造やイノベーションの創出が模倣困難な競争力になるからです。

デザイン経営の競争力

不安定な経営環境や消費者の行動の変化のなか、

これまでの科学的アプローチによる効率的な経営手法やコスト削減による経営改善が通用しづらくなりました。

その視点にいち早く気付いた経営者は早くからデザイン経営を実践しています。

では、どうやればデザイン経営を導入できるのか。

私のビジネスレビュー

「中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」では、

先行研究をベースに方法論を論じています。

次の投稿では、その方法論について分かりやすく要約していきます。

~続く「企業の存在意義(パーパス)の設定」~

デザイン経営の定義

デザイン経営
デザイン経営の定義

戦略デザイナー森田昌希のビジネスレビュー

「中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」

の要約①になります。

森田昌希プロフィールついてはこちら

この投稿では「デザイン経営の定義」についての要約です。


デザイン経営とは?

堅苦しくなってしまいますが、経産省特許庁が定義している内容を最初にお伝えいたします。

「デザイン経営とは、デザインを企業価値向上のための重要な経営資源として活用する経営である。」

つまり、デザイン経営は、ブランドの構築による独自性とイノベーションの創出による新しい市場価値、この2つを競争力の源泉とする新しい経営手法ということである。

図解すると以下になります。

デザイン経営の効果

(出所:デザイン経営宣言(2018)スライド2より引用)

ん?

分かりました?

デザイン経営の理解

最初に読んだ時は、抽象的でよく分からなかったです。

何となく言いたいことは分かるんだけど、

「で?」

と言いそうになりました。

かなり大雑把ですが分かりやすい表現で結論から先に言いますと、

【誰が】経営層自らが、

【何を】サービスや製品やデザインなど全ての意思決定

【どのように①】会社が大事にしている想いを基準にして、

【どのように②】お客様とか取引先との共感をベースに、

【どのように③】がりがり関わっていこー

【効果】自然と差別化されて、価格競争しなくていい強い競争力が生まれますよー

デザイン経営の定義を解説

※念のため、かなり大雑把なことはご理解ください(笑)


デザイン経営の肝

突然ですが核心に触れます。自社において考えてみてください。

上記のプロセス「誰が」「何を」「どのように」で

実行できていない箇所がありませんか?

ご心配は不要です。ほとんどの中小企業で実行できていません。研究結果も出ています。

それは「経営層自らが」の箇所です。

これには大きく2つの理由があります。

①デザインの意思決定は現場にあるから。

②経営者や幹部がデザイン思考を持つデザインの専門家ではないから

では、どうやれば①と②の原因を解消できるのか。

私のビジネスレビュー「中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」で導きました。

~続く「なぜデザイン経営は競争力になるのか」~

戦略デザイナーって何?

デザイン経営

はじめまして

大阪を拠点に活動する戦略デザイナーの森田です。

経営戦略をデザイン思考で立案する戦略デザイナーです。

VUCAの時代、中小企業が経営環境の変化に合わせて事業を継続するためには、限られたリソースで高い付加価値を生む産業競争力を持つ必要があります。

それを実現するのがデザイン経営です。

デザイン経営

大学院の経営研究科(MBA)で中小企業のデザイン経営を研究テーマにビジネスレビューを執筆しました。

デザイン経営についてはデザイン経営宣言をご参照ください

「なぜ中小企業でデザイン経営の導入は進みづらいのか」

その研究結果から、中小企業やBtoB企業でもデザイン経営を導入・実践するための新たな要件を導き出すことに成功しました。

戦略デザイナー森田昌希としての強みとは?

中小企業診断士の知識を活かしながらインフラ系IT企業の経営企画でマネージャーをやっています。

プロフィールはこちら

理論(国家資格&学位)と実践(経営企画)を合わせもった視点で戦略立案できることが戦略デザイナー森田昌希の強みです。