中小企業にデザイン経営が浸透しづらい理由~デザイン思考~

デザイン思考

この投稿は、デザイン経営が中小企業やBtoBや製品を持たない事業者では導入しづらい理由が組織構造上にあることについて論じた部分の要約になります。

戦略デザイナー森田昌希のビジネスレビュー

中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」の要約⑫になります。

森田昌希プロフィールついてはこちら

●キーワード

デザイン経営/デザイン経営宣言/中小企業/BtoB/デザイン思考/デザインのアウトソース


●デザイン経営の実践要件

しつこいですが、デザイン経営の実践要件は大きく言うと2つあります。

  1. 経営層(意思決定機関)にデザイン責任者がいること
  2. 事業戦略の最上流からデザインが関与していること

前回の投稿では、社内に経営感覚を持つデザイナーを抱えることは現実的でないためアウトソースで充分なのだが、デザインに関する意思決定が事業部に落ちてしまっている問題点を指摘しました。

デザインに関する意思決定には上流から関与する必要があり、

そのためには経営層が外注先や事業部との共通言語を持つ必要があることを提唱しています。

デザイン思考

●中小企業に浸透しづらい理由_デザイン思考

デザイン的意思決定を経営の最上流に移行する場合に必要なツール、それが経営層と事業部と外注先の共通言語となるデザイン思考です。

※デザイン思考についての要約はこちら

しかし、直ぐに大きな問題に直面します。

中小企業の経営者や経営層はデザイン思考というスキルを持っていないことが多いです。

また、中小企業経営にデザイン思考が効果的であることの実感はまだまだ薄いです。

ただ、デザイン思考とは先天的なスキルではなく、後天的に誰でも体得できるスキルであることは以前にも論じている通りです。

研修などで経営層と部門長が体得していくことは十分可能です。

教育だけでは不十分です。それなりに組織や評価制度のマイナーチェンジが必要です。


●3つの準備

デザイン思考を組織的に学び、組織的に活用していくためには準備が必要です。

  1. 教育
  2. 組織構造
  3. 評価

1.デザイン思考の教育・研修を、経営層と事業部責任者(外部研修を活用)で実施する。

2.組織構造を部分的に変更する。具体的には、デザインに関する意思決定を上位機関に格上げする。そして、意思決定機関で共感に始まりプロット&テストまでの一連をアジャイルで進めていく仕組みを準備します。(※研修で学んだ仕組みを意思決定機関に落とし込む)

3.評価制度を変更する。既存の人事評価のままでは事業部にインセンティブが働きません。定量的に評価しないことを前提とする枠組みでプロジェクトを組む必要があります(最大の難所)。

ハードル

簡単ではないです。

簡単にデザイン経営は実践できません。

だって、競争優位を組織的に獲得する術なのですから。


●まとめ

ここまでは、なぜ要件を満たすことができないのか?

最後に、どうすれば要件を満たすことができるのか?

そして必要な組織的な準備について論じてきました。

デザイン経営の疑問

言葉にすると簡単ですが、実際は困難です。さらに、事業特性も加味して実行するのは非常に困難です。
更に深堀りするため、次の投稿では「BtoBでは?」「サービス業では?」という視点で論じていきます。


(続く)

~BtoB企業でデザイン経営が浸透しづらい理由~

デザイン経営の成功事例と現実のギャップ

デザイン経営の成功事例

この投稿は、デザイン経営宣言におけるデザイン経営の要件と、要件を満たす事例企業のついて論じた部分の要約になります。

デザイン経営を実践するための要件を押さえ、中小企業やBtoB企業でデザイン経営を実践しづらい理由について論じていきます。

戦略デザイナー森田昌希のビジネスレビュー

中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」の要約⑨になります。

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●キーワード

デザイン経営/デザイン経営宣言/CDO/MFA/デザイン責任者/クリスチャン・ベイソン/マツダ/キヤノン/ヤマハ発動機/NEC


●デザイン経営の実践要件

デザイン経営宣言では、デザイン経営を実践するための要件を以下2つに整理しています。

⑴ 経営層(意思決定機関)にデザイン責任者がいること

⑵ 事業戦略の最上流からデザインが関与していること

もうこの時点で「そんなこと簡単に言うなよなw」

て感じた方も少なくないと思いますが、いったんスルーします。

●デザイン責任者

確かにCDO(Chief Design Officer)の存在や、MFA(美術学修士)の名称を目にする機会が増えています。

MBAからMFA

しかし、ポピュラーであるとまでは言えず、2021年現在の日本では、経営層ではなくマーケティング部門の中にデザイン責任者がいることが多く、業務的意思決定の範疇にデザイン責任者の椅子は置かれていることが多いのではないでしょうか。

デンマークデザインセンター

デザイン責任者が経営層にいるかマーケ部門にいるかという組織構造上の差異が競争力の差異になることを指摘しているのがデンマークデザインセンターCEOのクリスチャン・ベイソンでです。

●要件を満たしているケース

①デザイン責任者の座り位置

意思決定機関にデザイン責任者の椅子があるケースをご紹介します。

MAZDA

マツダでは2016年にブランドスタイル統括部という部門を新しく設置しています。

メディアと販売店を通じて外部に出る魂動デザインの伝播を統制することを試みたわけですが、自動車業界において本体が販売店などマーケ施策に関与することは珍しく強い反発があったらしいです。

しかし、マツダの前田常務執行役員はデザインの意思決定を販売店に任せず、マツダ本体の統括部で意思決定を行うことに強く拘ったそうです。

その結果、マツダの魂動デザインは販売店を巻き込み全社的に統制され、全国どこのお店でも顧客体験を重視したプロモーションが実施されています。

ヤマハ発動機

ヤマハ発動機は、“コンセプト・卓越した技術・デザイン”が経営の根幹であるとの社内の共通意識を醸成し、“デザインは企業の想いそのもの”という考えを加味したうえでデザインの機能を一部内製化(デザイン本部を設置)しています

キヤノン

キヤノンは、社内のデザインのスキルセットを集約してシナジーを生むことで産業競争力強化を図るためにデザイン室の統合を行い、名称を総合デザインセンターに変更して会長・社長直轄の組織として位置付けています

②デザイナーの立ち位置

戦略的に最上流からデザイナーが関与しているケースをご紹介します。

NEC

NECでは企業としてどのようなビジネスに取り組んでいくかという構想の段階からデザイナーが入ります。

デザイナーは顧客インサイトなどのより潜在的な課題の発見・掘り起こしと、それらの課題を解決するデザインを求められ、もはやプロダクトデザインの範疇ではなくなっています。

デザイナーへの要求が非常に高い印象を受けました。

この要求に応えられる高度デザイン人材を確保できていることが分かります

●まとめ

このようにデザイン経営の要件を満たす企業の事例が多くあることが分かりました。

「う~ん、でもな・・・」と感じられた方も多いのでは?

疑問

先にも述べた通り、デザイン経営が浸透していない現実とその理由がここにあるのではないでしょうか。

デザイン経営の実践企業として事例掲載される殆どの企業が大手企業かBtoC企業なんですね。世の中の殆どが中小企業とBtoB企業なのに、成功事例の殆どが大企業かBtoC企業である違和感たるや半端ないです。

デザイン経営の成功事例

デザイン経営宣言の成功事例分類私の論文では、

中小企業やBtoB企業に浸透しづらい理由を探究し、中小企業やBtoB企業でもデザイン経営を実践できる追加要件を導き出すことが目的になります。

~続く「デザイン経営が中小企業に浸透しづらい理由」~

破壊的イノベーションとオーバーシューティング

イノベーション

大学院(MBA)で、破壊的イノベーションの成功事例としてパーク24社を取り上げました。時間貸し駐車場市場におけるイノベーションを、時間軸で論じています。その課題の要点をまとめて3分で読めるボリュームに要約しました。
●キーワード

破壊的イノベーション/オーバーシューティング/駐車場ビジネス/連続的イノベーション

———-index————-

①はじめに

②昭和の時間貸し駐車場

③平成の時間貸し駐車場

④令和の時間貸し駐車場

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①はじめに

「時間貸し駐車場ビジネス」を題材に、破壊的イノベーションとオーバーシューティングについて、昭和、平成、令和という元号(時間軸)で論じています。

パークロックシステムを利用した24時間無人の時間貸し駐車場「タイムズ」を展開するパーク24社は、これまでの時間貸し駐車場の概念を根底から覆すサービスで市場に現れて、瞬く間に市場を独占した企業です。

パーク24

しかし、今まさに次の時代の破壊的イノベーションが忍び寄る私は見立てた仮説を立てました。

有人駐車場(昭和)から無人駐車場(平成)へ、そして次の「新しい概念の時間貸し駐車場(令和)」まで3世代に渡るオーバーシューティングと破壊的イノベーションについて調査しました。

●昭和の時間貸し駐車場

昭和の時間貸し駐車場の特徴は、

・管理人が駐在すること

・料金体制が時間割りより日割りであること

・営業時間が限定的であること

にあると言えます。

それ以外のサービスとしては、パーキングメーターという無人の駐車場が登場します。60分という制限があり60分を超えると違法駐車になるため、決して使い勝手の良いサービスとは言えないのかもしれません。このように昭和の駐車場サービスの主流は有人駐車場であったことが分かりました(akippa株式会社調べ)。

駐車場ビジネス

●平成の時間貸し駐車場

平成に入り突如現れたパーク24社、彼らが提供した駐車場サービスの特徴は、

・無人

・時間割で低価格

・24時間365日

にあると言えます。

環境変化の恩恵を受け著しい成長曲線を描き1999年には上場まで果たしてしまいます。

環境変化の恩恵とは、

  • バブル崩壊後の不景気のなか土地活用で悩む投資家に対し、固定的な安定収入を提供できるサービスであったこと
  • 法改正があり路上駐車の取り締まりが急激に強化されたためドライバーにとって駐車場が必要不可欠になったこと

です。

革新的なサービスを安価で提供できたうえに環境変化にも恵まれたパーク24社は、平成においてそのシェアを84.1%にまであげていきました。

急成長

パーク24社は、駐車している間に洗車をしてくれるサービスなど継続的なイノベーションを実施しているが、もしかするとオーバーシューティングでイノベーションのジレンマに陥るかもしれない。

令和の破壊的イノベーションの足音が聞こえ始めている。

※オーバーシュートについてはこちら(神戸大MBA)

≪一部抜粋≫

経営学やマーケティング論において「オーバーシュート」とは、メーカーが顧客の望んでいる以上の品質や性能の製品を開発して市場に出してしまうことであり、日本企業による「過剰品質」「過剰仕様」を指摘する場合などでよく用いられる。

●令和の時間貸し駐車場

最近目にするようになったのが、無人・無ロック、の時間貸し駐車場です。私の自宅付近だけでも2か所ありますし、令和3年現在では餃子の無人販売所が流行していますね。古くは田舎の野菜無人販売所に見られる信用のうえに成り立つビジネスモデル、利用者のリスクと事業者のコストの塩梅が見られる日本ならではのビジネスモデルと言えるのではないでしょうか。

信用

この無人・無ロック駐車場は、精算機が1台あるだけでロック版がない状態でサービスを提供しています。つまりその特徴は、

・イニシャルコストを削減できるため地主のリスクを軽減できること

・提供価格が通常のコインパーキングより非常に安いこと

にあると言えます。

その他にもCtoCで駐車場を時間貸しするプラットフォームを作ったakippa社なども顧客同士の信頼と信用のうえに成り立つビジネスであり、貸主と借り手の新しい価値観で市場が成り立ち始めています。

今のところ破壊的イノベーションが起きているとまでは言えないが、DXが進む令和の時代に何か起こりえる可能性は高いと感じています。

以上

デザイン経営の具体的な効果

デザイン経営

この投稿は、デザイン経営の具体的な効果について論じた部分の要約になります。

戦略デザイナー森田昌希のビジネスレビュー

中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」の要約⑧になります。

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●キーワード

デザイン経営/ブランド/イノベーション/インナーブランディング/インターナルマーケティング/サービスマーケティング/


●デザイン経営の効果_その1

「 で? 具体的にどんなメリットあるの? 」


デザイン経営導入後に、どんな便益をもたらしたのを

日本企業におけるデザイン経営の取り組み状況」(公益社団法人日本デザイン振興会,2020)から読み取りました。

レポート※国内企業519社の有効回答(アンケート結果)

デザイン経営の効果

デザイン経営に積極的な企業ほど、

①売り上げ成長率は高い傾向にある。

②将来的な効果への期待が高い傾向にある。

③従業員と顧客から愛される傾向にある。

という3つの結果が出ています。

①と②を導き出したアンケート結果は以下です。

(出所:公益社団法人日本デザイン振興会(2020)より引用)

3つ目の③従業員と顧客から愛される傾向についての結果を導いたアンケート結果は以下になります。

(出所:公益社団法人日本デザイン振興会(2020)より引用)

●デザイン経営の効果_その2

人材採用や人材定着率での効果が顕著であると言われています。

先の調査でも「デザイン投資に積極的な企業ほど従業員から愛される」という結果が出ていましたね。

これはインナーブランディングやインターナルマーケティングと呼ばれるマーケティング活動で、従業員満足度の向上がロイヤルティと顧客満足度の獲得へ繋がるというサービス・マーケティングの考え方で、ハーバード・ビジネススクールのへスケット教授(J.S.Heskett)と、サッサー教授(W.E.Sasser,Jr.)らが1994年に提唱した概念です。

サービスマーケティング

サービスマーケティングという考え方からも、デザイン経営の導入がブランド構築による付加価値創造(利益の最大化)に影響することが分かのではないでしょうか。

●まとめ

ここまで2回に渡り、デザイン経営の成功事例と具体的な効果について論じてきました。

しかし、ヒト、モノ、カネ、情報というリソースに乏しい中小企業にとって、

「戦略的に有効であることは分かるけど、導入&実践が非現実的だ」

というデザイン経営の問題を捉えることができました。

デザイン経営

次は、デザイン経営宣言と現実とのギャップについて掘り下げていきます。

そのギャップを埋め、デザイン経営が、企業規模や主幹事業の内容に左右されず導入しやすい経営戦略になること、それこそ私が論文を執筆した目的です。

~続く「デザイン経営宣言から見るデザイン経営成功事例と現実にあるギャップ」~

ITやDXへの投資を評価する方法

デジタルトランスフォーメーション

意思決定をロジカルに導くためのプロセスをMBAでは多く学びましたが、

その中でもIT投資に対する費用対効果の評価方法を自分なりにまとめてみました。

ITやDX(デジタルトランスフォーメーション)がホットワードな現在に

活用しやすいフレームワークかもしれません。

●キーワード

IT経営/IT投資/DX/デジタルトランスフォーメーション/意思決定/投資の効果/MECE

———-index————-

①マトリックス

②定量×直接

③定量×関節

④定性×直接

⑤定性×関節

⑥まとめ

——————————-


①マトリックス

定量/定性と、直接/関節で、4象限に分類します。

MECEでIT投資やDX投資の費用対効果を評価することができます。

図にするとこんな感じです。

ITの投資効果

②定量×直接→短縮

システム機能により直接的に得られる具体的な成果を指します。

主に作業時間や回数の短縮という効果です。

これは例えば、従来手作業で行っていた作業をシステムで行うことで業務時間や作業回数が短縮されるという内容です。

重要なことは、時間あたりの単価と作業1回あたりの単価を決めておくことです。

DX投資の経済性

③定量×間接→改善

システム機能により間接的に得られる具体的な成果を指します。

主に指標の改善という効果を意味します。

これは例えば、納期遵守率、不良率、在庫管理費用、受注件数、売上高などの改善が見られます。

IT業務改善

④定性×直接→標準化

システム機能により直接的に得られる抽象的な成果を指します。

定量的に測定できないが、生産計画、QCD管理、業務の標準化が見られます。

ITで標準化

⑤定性×間接→向上

システム機能により間接的に得られる抽象的な成果を指します。

定量的に測定できないが、信頼性、顧客満足度、従業員満足度の向上が見られます。

顧客満足度

⑥まとめ

これらをまとめて図にするとこんな感じです。

定量的効果が意思決定に影響しやすいことは明らかではありますが、

定性的効果も同時に意思決定の材料として分類することも非常に重要です。

以上です。

デザイン経営の成功事例

グローバル企業のデザイン経営

この投稿は、デザイン経営の成功事例を、グローバル、国内大手、国内中小、の軸で論じた部分の要約になります。

戦略デザイナー森田昌希のビジネスレビュー「中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」の要約⑦になります。

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●キーワード

デザイン経営/経営戦略/ Apple / ダイソン / パタゴニア / ネスレ/slack/ SONY / 良品計画 / JINS / メルカリ / ヤマハ発動機 / スギノマシン / 中川政七商店 / ジャクエツ / 東洋スチール / クラスコ

●デザイン経営の成功事例

デザイン経営の成功事例を、グローバル企業、大手企業、中小企業、と分類しレビューすることで、デザイン経営の浸透を阻む問題を炙り出しています。

デザイン経営が、企業規模や主幹事業の内容に左右されず導入しやすい経営戦略になること、それこそ私が論文を執筆した目的です。

●グローバル企業のデザイン経営

グローバル企業の成功事例としては、Apple、ダイソン、パタゴニア、ネスレ、slackなどが挙げられています。

これらの企業は、パーパスに基づき製品やUIUX拘ることで独自性や新しい市場価値を生むことに成功しています。

パーパス

一方でこれらの企業がデザイン経営の事例として紹介されればされるほどに「デザイン経営」=「おしゃれな物を造る、売る会社」と認識してしまう人が多くなります。

このミスリードが中小やBtoBがデザイン経営導入への障壁になっていることは間違いありません。これらグローバル企業の具体例についてはネットで情報がゴロゴロ転がっているので今回の要約では割愛します。

では、国内の企業はどうでしょうか?

●国内大手のデザイン経営

国内大手の成功事例としても、SONY、良品計画、JINS、メルカリ、などBtoC企業が多いが、本論文ではヤマハ発動機やスギノマシンといったBtoB企業の成功事例を取り上げています。

BtoBのデザイン経営

富山に本社を置く工作機械製造会社であるスギノマシンは、機器その物ではなく、自社が提供する機器や、従業員の制服や、コーポレートサイトなど全体を通じて、「スギノマシンの工作機械」を顧客に認知してもらうことを重要視してきたそうです。

スギノマシン

ただ、杉野岳氏は朝日新聞社ツギノジダイのインタビュー記事のなかで

「デザイン経営を推進する人件費はバカになりません。経営に携わる誰かが『腹をくくってやるぞ』と言わなければ、とてもじゃないけどできないことです。特に当社のようなBtoBメーカーで、『経営にデザインを取り入れよう』と言っても、『そんな遊びみたいなことが何になるんだ』と言われるわけですよ。そこを力技ではなくロジカルに、他の経営陣を説得するだけの覚悟と準備は必要ですよね。」

(ツギノジダイ,2021年7月現在)

と言っている。

大手であってもBtoB企業ではデザイン経営の導入が難しいことが伝わってくる。

●国内中小のデザイン経営

中小企業の成功事例としても、奈良の中川政七商店などBtoC企業がやはり多いが、ジャクエツ、東洋スチール、クラスコなどBtoB企業やプロダクトを持たない中小企業を本論文では取り上げています。

自社のオリジナル製品を持たない中小BtoC企業の成功事例として取り上げたのは石川県に本社を置く不動産仲介業のクラスコグループです。

デザイン経営

小村氏(2019)によると、

デザイン経営の実行

「ブランディングはマインドイノベーションを、テクノロジーはプロセスイノベーションを、ブランディング×テクノロジー=サービスイノベーションをもたらす」

(小村「デザイン経営の実行」,2019,pp.44-45)

デザイン経営の2つの要素をテクノロジーで分解し、その先に顧客満足があると書いています。

これをWEBサイトや顧客サービス(顧客体験UX)や従業員の働く環境に落とし込むことで、製品を持たずともパーパスを社内外に伝えることできたそうです。

その結果、物件自体で差別化のしようがない業界特性のなか「クラスコに物件を選んでもらいたい」となるほどの顧客満足を獲得し、事業の拡大という具体的な成果を出しています。

具体的に何を実行したかは紹介した書籍でお読みください。

デザイン経営の導入後にの成果は、賃貸仲介件数ランキングで8年連続北陸地区第1位となり、社員一人あたりの生産性は2.5倍になったそうです。また、従業員がクラスコに集まり始め、県内社名認知度は50%以下から98%にまで向上し採用面で大きな効果をもたらしたと同書籍で記されています。

大手でもない、BtoCでもない、

そんな中小企業でのデザイン経営の成功事例があることが分かりました。

●問題提起

ここまでのように中小企業でも成功事例はあります。

しかし、ヒト、モノ、カネ、情報という中小企業のリソースを考慮すると導入が容易でないことは分かりました。さらに言えば、ボリュームゾーンである中小のBtoB企業や自社製品を持たない企業でデザイン経営の導入に成功した企業は極めて少ないことも分かりました。

デザイン経営の困難

「戦略的に有効であることは分かるけど、導入&実践が非現実的だ」

という問題を解決するために、本論文では中小BtoB企業のデザイン経営導入における要件の不足を明らかにしてきます。

~続く~

~獺祭~旭酒造の競争力をデザイン経営の視点から分解

獺祭

~獺祭~旭酒造のデザイン経営

獺祭で有名な旭酒造は、マーケティングやイノベーションや地方創生の視点で論じられることが多いですよね。先行研究にも良く取り上げられています。

旭酒造のWEBサイトはこちら

大学院のケーススタディでは頻出企業でした(笑)。

本稿では、少しレイヤーをあげてデザイン経営の視点で旭酒造の競争力を分解してみました。

デザイン経営の論文要約はこちら

パーパス ⇒ デザイン経営 = ブランド × イノベーション

獺祭のブランド × 獺祭の新しい市場価値(生産と流通)に置き換え、

それぞれレビューしていきます。

要点だけをまとめて5分で読めるボリュームに要約しました。

デザイン経営の効果
デザイン経営の効果

———-index————-

①旭酒造のパーパス

②獺祭のブランド

③獺祭の新しい市場価値_生産&流通

④まとめ

——————————

①旭酒造のパーパス

『酔うため、売るための酒ではなく、味わう酒を求めて。』

旭酒造のパーパス

やはり二人称で掲げられていました。

企業にとって「売るための酒ではなく、味わう酒」であり、

お客様にとって「酔うためではなく、味わう酒」であります。

まさに共感ベース(YouだけでなくYou&I)で礎が打ち込まれています。

※私の研究では2人称はYouではなくYou&Iになりますが、3人称のWeとは区別しています

  • I    =アート思考⇒創造の手段
  • You   =顧客志向(マーケ2.0まで)⇒顕在ニーズを満たす手段
  • You&I =デザイン思考⇒潜在的問題解決の手段
  • We =社会思考(DDIなど)

②獺祭のブランド

●2割3分の純米大吟醸

獺祭

「味わう酒」を追求するとここまで磨くことになります。

つまり原価が高騰します(通常の純米大吟醸が5割)。

新しい顧客が新しい体験をするために必要なコストであるという経営判断をしたんですね。

「You&I」と言うより「I」が強め、アート思考よりでかなりのギャンブルですね(笑)。

●希少性

ブランドコントロールのためなど様々な理由はありますが卸を介さないことが希少性に繋がりました。

しかし、生産戦略の視点から疑問が残ります。1000本の需要に対し10本しか生産できないことは機会損失が大きすぎます。1000本の需要に対し999本生産したいところです。希少性と機会損失のバランスは本当に難しいですね。

●その他

  • 「杜氏の新たな雇用形態」
  • 「火入れなど他社が模倣困難な製法」
  • 「属人化させない製法」
  • 「ワインがライバル」
  • 「海外でもローカライズしない」

など常識を覆した弱小酒蔵としてメディアが取り上げ続けたことが最もブランド構築に役立ったのではないでしょうか。中小企業でも広報PRが重要な事例と思います。

中小企業のPR

③獺祭の新しい市場価値

●生産のイノベーション

杜氏の暗黙知やノウハウなど属人的な製法を可能な限り止め、計数管理による生産の見える化を実現させました。日本酒の製法におけるイノベーションですね。学術的に見ても、組織の5原則である専門性の発揮や、模倣困難性、支える組織もしっかり設計されています(VRIO)。

計数管理

●流通

・直販

決定的なイノベーションは卸を排除し酒屋への直販体制を敷いたことです。

田舎の弱小酒蔵が、並々ならぬ営業努力により、獺祭会という直販体制を構築しました。

直販

直販体制を敷く必要があった理由は、価格統制、ブランド維持、エンドユーザーの声、を重視したからだそうです。

・いきなり東京

地産地消という酒蔵と顧客にとっての当たり前を排除し、いきなり東京進出しています。地元を懐かしむ東京在住の山口の方がイノベーターとなり、アーリーアダプターを巻き込みキャズムを乗り越えています。

流通と消費行動の2つの意味でのイノベーションですね。

マーケティング

また、直販により顧客との距離感が縮まったため顧客の消費行動をダイレクトに収集することができました。

その結果、STPで新しい消費行動による市場を見つけたんですね。

具体的には、新しいターゲット(若者&女性)と新しい消費行動(洋食店で日本酒)です

女性とお酒

④まとめ

以上より、ブランドとイノベーションにより競争力を得た獺祭は大きな市場を見つけ、先行者優位による強いロイヤルティも獲得しました。知名度のない田舎の弱小酒蔵でも、デザイン経営で東京や世界へ飛び出すことができたわけです。

海外進出


ここからは補足ですが、上記までの内容をもっと学問的にまとめました。

ご興味ある方は是非お読みください。


~続き~

日本酒の市場がシュリンクを続けるなかで(環境変化)、

①をベースに②と③の強みを生かし(模倣困難な組織と体制を構築)、

競争力を高めた(マーケティング)事例と言えます。

●国内マーケティング

誰と:

獺祭会に属す既存の酒屋と

誰に:

ワインバーなど通常日本酒を置かない飲食店に

何を:

和食以外にも合う磨き率の獺祭を

どのように: 

①旭酒造の営業担当と酒屋が、地域の飲食店情報をベースに新規開拓戦略を実施することで上記ターゲットを見つけ出す。

②日本酒が好きな玄人ではなく、食事前のおつまみと一緒に少量のお酒を健康的に楽しむ方や、美味しい食事を楽しむ一般の方に獺祭が合うことを酒屋と共に店頭訪問しブランド認知度も絡めて訴求する(プッシュ)。 

③可能な範囲で社長がメディアに露出する際に、獺祭の新しい楽しみ方、つまり酒自体を味わうのではなく食事を楽しむ(モノ消費ではなくコト消費)ことをパブリシティに載せる(プル)。 

④成功事例や導入事例を他地域で横展開させる。

効果:

以上により、新しい市場へのTPを作り、売上数量を増加させ、酒屋との関係性強化を図ることで代理店の定着率と代理店のレベルの高さを担保した。

そして、社長の想い「美味しいお酒を新しいお客様に届ける」ことを実現させた(アンゾフ市場開拓)。

●海外マーケティング

誰に:

海外の展示会で新しく接する海外代理店に

何を:

ローカライズしない日本らしい純米大吟醸である獺祭を

どのように(展示会では):

①純米大吟醸の価値を訴求する。

②酒自体を楽しむのではなく、食事と楽しむコト消費型の日本酒であることを訴求する。

どのように(契約後は):

①日本で実施している勉強会や営業担当者と酒屋での密なコミュニケーションにより、商品情報や知識やロイヤルティなど販売店の品質を国内同様に担保する。

②一定のレベルを担保した代理店と限定的に取引を行う。

効果:

以上により、海外という新市場を開拓することで、売上数量を増加させ代理店との関係性を強化した。

また、日本の獺祭会のような組織的な販売チャネルを海外でももつことで、獺祭というブランドを海外でも国内と同様に担保した。

そして、社長の想い「日本らしい香りと味の美味しいお酒を海外のお客様にも届ける」ことを実現させた(アンゾフ市場開拓)。

最後は何だか診断士の筆記試験の解答のようになってしまいましたね(笑)。

おわり

デザイン思考~デザイン経営~

デザイン思考

この投稿は、「デザイン思考とデザイン経営」についての要約です。

戦略デザイナー森田昌希のビジネスレビュー

中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」の要約④になります。

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●キーワード

デザイン経営/デザイン思考/デザインシンキング/共感/デザインドリブンイノベーション/戦略デザイナー

●デザイン思考は単なる手段

いきなり超重要なポイントです!

デザイン思考とは先天的な才能ではありません。

また、デザインセンスを持つ人だけが体得できる専門スキルでもありません。

デザイン思考は、全ての人が後天的に体得できる思考方法(単なる手段)に過ぎないんです。

デザインドゥーイング ⇒ 先天的なセンスが影響

デザインシンキング ⇒ 後天的な汎用スキル

●共感から始まるデザイン思考

デザイン思考は、ユーザーを観察し、ユーザーに共感し、ユーザーも気づいていない潜在的な課題に目を向けます。

デザイン思考

そして、課題と技術を結び付けたアウトプット(プロット)を出すところから始まり、

共感とアウトプットをアジャイル的に反復するのがデザイン思考です。

なので ”考え方” というより ”手段” に近いんですね。

起点がフレームワークや過去の実績や科学的根拠や機能的価値ではなく、

デザイン思考の起点はユーザーへの共感にあります

●ユーザー目線

良品計画の金井政明会長は、日経ビジネス(2019年2月20日号)の記事で次のように語っています。

無印良品のデザイン経営

「企業は天動説になってしまいます。自分の会社から世の中を見てしまいます。世間は自分たちの会社や商品を分かっていると思い込みたいし、思い込みます。」

ユーザー目線を企業が持つための(天動説を地動説に置き換えるための)機能の必要性を説いていらっしゃるんですね。

社内のボードメンバーが下すマーケティングや顧客志向による意思決定では、天動説(既存の尺度)の枠組みから出ることは難しい。

なので良品計画はアドバイザリーボードを置き、天動説に偏った意思決定を排除できる体制を整えているようです。

①デザイン思考を持たないボードメンバーによる意思決定からイノベーションは起きない

②ボードメンバーから降りてくるロジカルな意思決定による制約条件なかで、事業部によるデザインの意思決定からイノベーションは起きない

●デザイン思考による経営の意思決定

良品計画のように、デザイン思考による意思決定が事業部ではなく経営層にあるべきという先行研究をご紹介します。

TimBrown氏は、

今やデザインは思考プロセスとして上流に移りつつあるのだ

(Tim Brown(2009)CHANGE BY DESIGN、(邦訳 千葉敏生訳(2010)『デザイン思考は世界を変える』早川書房.p.18))

と著書で述べています。

事業部にあったプロダクトデザインという組織の機能から、デザイン思考による意思決定機関としてレイヤーが上がって重要度が高くなっています。

その理由は、デザイン思考によるデザイン経営が独自性(ブランド)と新しい市場価値(イノベーション)を創造し競争力の源泉になることが分かってきたからなんですね

デザインに携わる方にしてみれば「遅っ」と思われるでしょう(笑)。そもそもデザイン経営は過去数十年に言葉をかえて提唱されてきた概念でもあります。デザイン経営の歴史についてはネットを調べれば情報がたくさんあるので本稿では割愛します。

●デザインドリブンイノベーション

デザイン思考がイノベーションにつながった事例としてニンテンドーwiiの先行研究を紹介します。

『デザインドリブンイノベーション(以下DDI)』(ベルガンティ,2016)で、

枯れた技術に意味を付与する意味の価値、つまり“ゲームを楽しむ”から“運動する”価値転換(バリュートランスフォーメーション)により新しい市場を創造したイノベーションであると言っています。

ただし、起点を同じユーザーとしているが、

ユーザーの中でもYou(2人称)かPeople(3人称)かで少し異なると言われています。

森永氏は自著でデザイン思考とDDIとアート思考の起点について整理している(『デザイン、アート、イノベーション』同文館出版,2021)。

各概念の守備範囲の違い

さらに、「DDIは3人称のPeopleに注目した取り組みであり社会的に既に共有された意味を革新することで新しい価値を生む(中略)マクロな意味に注意が向く」(森永,2021,p.157.)とも言っています。

簡単な言葉に置き換えると、

①2人称か3人称か

②マクロかミクロか

という違いはあるものの重要なことは、

デザイン思考もDDIも、経営戦略の上流にあることがイノベーション視点からも捉えることができる

ということです。

●まとめ

デザイン思考とは、単なる手段やプロセスにしか過ぎない。デザイン思考に似た手段やプロセスは他にもあり、どうやらイノベーションの出発点になっている。

従って、経営の意思決定と直接的に関わる必要がある。

デザイン思考とイノベーションが切っても切り離せない関係にあることを次の投稿で要約します。

私のビジネスレビュー「中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」では、並んで論じられるアート思考デザインドリブンイノベーションなどと比較しながらデザイン思考を論じています。

次の投稿では、イノベーションについての研究結果を要約していきます。

~続く「デザイン経営とイノベーション」~

なぜデザイン経営が競争力の源泉になるのか

差別化と競争力
デザイン経営と差別化

戦略デザイナー森田昌希のビジネスレビュー

中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」の要約②になります。

森田昌希プロフィールついてはこちら

この投稿では「デザイン経営が競争力になる理由」についての要約です。

●キーワード

デザイン経営/デザイン思考/競争力/VUCA/ロジカルシンキング/コモディティ化/独自性/新しい市場価値/コト消費/付加価値/情緒的価値/戦略デザイナー

VUCA

最近よく聞きますよね、VUCA

Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)

これらの頭文字を並べた言葉で、元はアメリカの軍事用語です。

現在は今の時代を表す言葉として用いられビジネスシーンでのホットワードで、ビジネスを取り巻く環境変化が極めて不安定であることを端的に表しています。

VUCA
VUCA

経営の意思決定

これまでの経営は、意思決定が論理的に導かれてきました。

ロジカル思考
ロジカル思考

過去の成功体験や成功事例から科学的に未来を予測することで合理的な解(意思決定)を求めてきたし、それで結果が出てきたことも事実です。

しかし、過去のデータやノウハウを可能な限り標準化し、数字に裏打ちされた論理的な思考で求める解はVUCAの時代では切り札にならないと言われています。

論文で「※個人の感想です」は通用しませんので、しっかりと「誰が?」を明示しておきます。

デザイン思考の道具箱
奥出直人(2013)『デザイン思考の道具箱』早川書房

奥出(2013)さんは、

このような変化のなかで経営において利益あるいは利潤を生みだすものとされていた技術や知識が、もはや切り札にならない」(奥出,2013,p.44.)と言っています。

世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか
山口周(2017)『世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか? 』 光文社新書

山口(2017)さんは、

複雑化・不安定化した現環境で論理的思考による意思決定による戦いは困難を極める」(山口、2017)と言っています。

日経ビジネス
株式会社日経BP「日経ビジネス」(2021年5月

A・T・カーニー日本の梅沢高明会長(2021)は、

数字に裏打ちされた論理的な思考だけでは企業は新たな製品やサービス開発に対応できなくなった」(日経ビジネス,2021,5/30号)と言っています。

私の個人的な感想ではないことはご理解いただけましたでしょうか(笑)

デザイン経営の効果
デザイン経営の効果

このような環境下において、

デザイン経営による独自性(ブランド)と新しい市場価値(イノベーション)は競争力の源泉となるとデザイン経営宣言に書かれています。

当然これは中小企業に限ることではなくグローバルな大企業にも言えることです。

コト消費

もう一つの要因として、

モノを消費する時代からコトを消費する時代へ転換したことが大きいと言われています。

コト消費
コト消費

これは単なる消費行動の変化だけでなく、

企業が差別化するベクトルも一緒に変化したと言われています。

こちらも個人の感想ではありません(笑)

経営とデザインのかけ算
尾崎美穂(2020)『経営とデザインのかけ算』合同フォレスト

尾崎さんは自著のなかで(尾崎,2020)

「技術力の高さを伝えるだけでは消費者の購買意欲は湧きませんし、他社との差別化も難しくなります。商品やサービスに消費者が求める付加価値を与えて“選びたくなる理由”を作り出す必要があります」(尾崎,2020,p.21.)と言っています。

意思決定の変化“選びたくなる理由”が機能的価値から情緒的価値にシフトしたことは、

論理的思考で導かれた企業の意思決定と市場が結びつかなくなったと私も考えています。

デザイン思考から生まれるもの

「機能的な差別化はマネされやすい」

デザイン思考

この一言に全てが込められていると思いませんか?

機能的な尖がりは、独自性(ブランド)や新しい市場価値(イノベーション)にならない時代になりました。

A:5合のお米を40分でふっくら炊き上げる高機能炊飯器
B:あなたのキッチン空間に溶け込むバルミューダのデザイン炊飯器

Aの場合、

「じゃ弊社は、6合を35分で炊き上げる炊飯器を開発しよう!」

と目標設定が容易になります。

「目標設定が容易=意思決定しやすい」

意思決定

経営に関わる業務に就いたことがあると痛感しませんか?

定量的な判断材料で意思決定することが体の隅まで染み渡っているんです。

この意思決定は、競合が参入しやすい市場を形成していることに繋がるため、

短期的な価値になってしまいます。

一方Bの場合、

「バルミューダのデザインをパクろう」

とはなりづらいですよね。※非常識なメーカーを除く

デザイン思考によるデザイン経営

論理的意思決定経営→機能的な成果物→機能性優位による独自性や新市場価値→短期的な競争力


デザイン思考によるデザイン経営→情緒的な成果物→情緒的優位による独自性や新市場価値→長期的な競争力

デザイン思考から生まれるもの

デザイン経営が競争力になる理由は、

デザイン思考によるブランド創造やイノベーションの創出が模倣困難な競争力になるからです。

デザイン経営の競争力

不安定な経営環境や消費者の行動の変化のなか、

これまでの科学的アプローチによる効率的な経営手法やコスト削減による経営改善が通用しづらくなりました。

その視点にいち早く気付いた経営者は早くからデザイン経営を実践しています。

では、どうやればデザイン経営を導入できるのか。

私のビジネスレビュー

「中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」では、

先行研究をベースに方法論を論じています。

次の投稿では、その方法論について分かりやすく要約していきます。

~続く「企業の存在意義(パーパス)の設定」~

デザイン経営の定義

デザイン経営
デザイン経営の定義

戦略デザイナー森田昌希のビジネスレビュー

「中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」

の要約①になります。

森田昌希プロフィールついてはこちら

この投稿では「デザイン経営の定義」についての要約です。


デザイン経営とは?

堅苦しくなってしまいますが、経産省特許庁が定義している内容を最初にお伝えいたします。

「デザイン経営とは、デザインを企業価値向上のための重要な経営資源として活用する経営である。」

つまり、デザイン経営は、ブランドの構築による独自性とイノベーションの創出による新しい市場価値、この2つを競争力の源泉とする新しい経営手法ということである。

図解すると以下になります。

デザイン経営の効果

(出所:デザイン経営宣言(2018)スライド2より引用)

ん?

分かりました?

デザイン経営の理解

最初に読んだ時は、抽象的でよく分からなかったです。

何となく言いたいことは分かるんだけど、

「で?」

と言いそうになりました。

かなり大雑把ですが分かりやすい表現で結論から先に言いますと、

【誰が】経営層自らが、

【何を】サービスや製品やデザインなど全ての意思決定

【どのように①】会社が大事にしている想いを基準にして、

【どのように②】お客様とか取引先との共感をベースに、

【どのように③】がりがり関わっていこー

【効果】自然と差別化されて、価格競争しなくていい強い競争力が生まれますよー

デザイン経営の定義を解説

※念のため、かなり大雑把なことはご理解ください(笑)


デザイン経営の肝

突然ですが核心に触れます。自社において考えてみてください。

上記のプロセス「誰が」「何を」「どのように」で

実行できていない箇所がありませんか?

ご心配は不要です。ほとんどの中小企業で実行できていません。研究結果も出ています。

それは「経営層自らが」の箇所です。

これには大きく2つの理由があります。

①デザインの意思決定は現場にあるから。

②経営者や幹部がデザイン思考を持つデザインの専門家ではないから

では、どうやれば①と②の原因を解消できるのか。

私のビジネスレビュー「中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」で導きました。

~続く「なぜデザイン経営は競争力になるのか」~