デザイン経営の具体的な効果

デザイン経営

この投稿は、デザイン経営の具体的な効果について論じた部分の要約になります。

戦略デザイナー森田昌希のビジネスレビュー

中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」の要約⑧になります。

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●キーワード

デザイン経営/ブランド/イノベーション/インナーブランディング/インターナルマーケティング/サービスマーケティング/


●デザイン経営の効果_その1

「 で? 具体的にどんなメリットあるの? 」


デザイン経営導入後に、どんな便益をもたらしたのを

日本企業におけるデザイン経営の取り組み状況」(公益社団法人日本デザイン振興会,2020)から読み取りました。

レポート※国内企業519社の有効回答(アンケート結果)

デザイン経営の効果

デザイン経営に積極的な企業ほど、

①売り上げ成長率は高い傾向にある。

②将来的な効果への期待が高い傾向にある。

③従業員と顧客から愛される傾向にある。

という3つの結果が出ています。

①と②を導き出したアンケート結果は以下です。

(出所:公益社団法人日本デザイン振興会(2020)より引用)

3つ目の③従業員と顧客から愛される傾向についての結果を導いたアンケート結果は以下になります。

(出所:公益社団法人日本デザイン振興会(2020)より引用)

●デザイン経営の効果_その2

人材採用や人材定着率での効果が顕著であると言われています。

先の調査でも「デザイン投資に積極的な企業ほど従業員から愛される」という結果が出ていましたね。

これはインナーブランディングやインターナルマーケティングと呼ばれるマーケティング活動で、従業員満足度の向上がロイヤルティと顧客満足度の獲得へ繋がるというサービス・マーケティングの考え方で、ハーバード・ビジネススクールのへスケット教授(J.S.Heskett)と、サッサー教授(W.E.Sasser,Jr.)らが1994年に提唱した概念です。

サービスマーケティング

サービスマーケティングという考え方からも、デザイン経営の導入がブランド構築による付加価値創造(利益の最大化)に影響することが分かのではないでしょうか。

●まとめ

ここまで2回に渡り、デザイン経営の成功事例と具体的な効果について論じてきました。

しかし、ヒト、モノ、カネ、情報というリソースに乏しい中小企業にとって、

「戦略的に有効であることは分かるけど、導入&実践が非現実的だ」

というデザイン経営の問題を捉えることができました。

デザイン経営

次は、デザイン経営宣言と現実とのギャップについて掘り下げていきます。

そのギャップを埋め、デザイン経営が、企業規模や主幹事業の内容に左右されず導入しやすい経営戦略になること、それこそ私が論文を執筆した目的です。

~続く「デザイン経営宣言から見るデザイン経営成功事例と現実にあるギャップ」~

ITやDXへの投資を評価する方法

デジタルトランスフォーメーション

意思決定をロジカルに導くためのプロセスをMBAでは多く学びましたが、

その中でもIT投資に対する費用対効果の評価方法を自分なりにまとめてみました。

ITやDX(デジタルトランスフォーメーション)がホットワードな現在に

活用しやすいフレームワークかもしれません。

●キーワード

IT経営/IT投資/DX/デジタルトランスフォーメーション/意思決定/投資の効果/MECE

———-index————-

①マトリックス

②定量×直接

③定量×関節

④定性×直接

⑤定性×関節

⑥まとめ

——————————-


①マトリックス

定量/定性と、直接/関節で、4象限に分類します。

MECEでIT投資やDX投資の費用対効果を評価することができます。

図にするとこんな感じです。

ITの投資効果

②定量×直接→短縮

システム機能により直接的に得られる具体的な成果を指します。

主に作業時間や回数の短縮という効果です。

これは例えば、従来手作業で行っていた作業をシステムで行うことで業務時間や作業回数が短縮されるという内容です。

重要なことは、時間あたりの単価と作業1回あたりの単価を決めておくことです。

DX投資の経済性

③定量×間接→改善

システム機能により間接的に得られる具体的な成果を指します。

主に指標の改善という効果を意味します。

これは例えば、納期遵守率、不良率、在庫管理費用、受注件数、売上高などの改善が見られます。

IT業務改善

④定性×直接→標準化

システム機能により直接的に得られる抽象的な成果を指します。

定量的に測定できないが、生産計画、QCD管理、業務の標準化が見られます。

ITで標準化

⑤定性×間接→向上

システム機能により間接的に得られる抽象的な成果を指します。

定量的に測定できないが、信頼性、顧客満足度、従業員満足度の向上が見られます。

顧客満足度

⑥まとめ

これらをまとめて図にするとこんな感じです。

定量的効果が意思決定に影響しやすいことは明らかではありますが、

定性的効果も同時に意思決定の材料として分類することも非常に重要です。

以上です。

デザイン経営の成功事例

グローバル企業のデザイン経営

この投稿は、デザイン経営の成功事例を、グローバル、国内大手、国内中小、の軸で論じた部分の要約になります。

戦略デザイナー森田昌希のビジネスレビュー「中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」の要約⑦になります。

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●キーワード

デザイン経営/経営戦略/ Apple / ダイソン / パタゴニア / ネスレ/slack/ SONY / 良品計画 / JINS / メルカリ / ヤマハ発動機 / スギノマシン / 中川政七商店 / ジャクエツ / 東洋スチール / クラスコ

●デザイン経営の成功事例

デザイン経営の成功事例を、グローバル企業、大手企業、中小企業、と分類しレビューすることで、デザイン経営の浸透を阻む問題を炙り出しています。

デザイン経営が、企業規模や主幹事業の内容に左右されず導入しやすい経営戦略になること、それこそ私が論文を執筆した目的です。

●グローバル企業のデザイン経営

グローバル企業の成功事例としては、Apple、ダイソン、パタゴニア、ネスレ、slackなどが挙げられています。

これらの企業は、パーパスに基づき製品やUIUX拘ることで独自性や新しい市場価値を生むことに成功しています。

パーパス

一方でこれらの企業がデザイン経営の事例として紹介されればされるほどに「デザイン経営」=「おしゃれな物を造る、売る会社」と認識してしまう人が多くなります。

このミスリードが中小やBtoBがデザイン経営導入への障壁になっていることは間違いありません。これらグローバル企業の具体例についてはネットで情報がゴロゴロ転がっているので今回の要約では割愛します。

では、国内の企業はどうでしょうか?

●国内大手のデザイン経営

国内大手の成功事例としても、SONY、良品計画、JINS、メルカリ、などBtoC企業が多いが、本論文ではヤマハ発動機やスギノマシンといったBtoB企業の成功事例を取り上げています。

BtoBのデザイン経営

富山に本社を置く工作機械製造会社であるスギノマシンは、機器その物ではなく、自社が提供する機器や、従業員の制服や、コーポレートサイトなど全体を通じて、「スギノマシンの工作機械」を顧客に認知してもらうことを重要視してきたそうです。

スギノマシン

ただ、杉野岳氏は朝日新聞社ツギノジダイのインタビュー記事のなかで

「デザイン経営を推進する人件費はバカになりません。経営に携わる誰かが『腹をくくってやるぞ』と言わなければ、とてもじゃないけどできないことです。特に当社のようなBtoBメーカーで、『経営にデザインを取り入れよう』と言っても、『そんな遊びみたいなことが何になるんだ』と言われるわけですよ。そこを力技ではなくロジカルに、他の経営陣を説得するだけの覚悟と準備は必要ですよね。」

(ツギノジダイ,2021年7月現在)

と言っている。

大手であってもBtoB企業ではデザイン経営の導入が難しいことが伝わってくる。

●国内中小のデザイン経営

中小企業の成功事例としても、奈良の中川政七商店などBtoC企業がやはり多いが、ジャクエツ、東洋スチール、クラスコなどBtoB企業やプロダクトを持たない中小企業を本論文では取り上げています。

自社のオリジナル製品を持たない中小BtoC企業の成功事例として取り上げたのは石川県に本社を置く不動産仲介業のクラスコグループです。

デザイン経営

小村氏(2019)によると、

デザイン経営の実行

「ブランディングはマインドイノベーションを、テクノロジーはプロセスイノベーションを、ブランディング×テクノロジー=サービスイノベーションをもたらす」

(小村「デザイン経営の実行」,2019,pp.44-45)

デザイン経営の2つの要素をテクノロジーで分解し、その先に顧客満足があると書いています。

これをWEBサイトや顧客サービス(顧客体験UX)や従業員の働く環境に落とし込むことで、製品を持たずともパーパスを社内外に伝えることできたそうです。

その結果、物件自体で差別化のしようがない業界特性のなか「クラスコに物件を選んでもらいたい」となるほどの顧客満足を獲得し、事業の拡大という具体的な成果を出しています。

具体的に何を実行したかは紹介した書籍でお読みください。

デザイン経営の導入後にの成果は、賃貸仲介件数ランキングで8年連続北陸地区第1位となり、社員一人あたりの生産性は2.5倍になったそうです。また、従業員がクラスコに集まり始め、県内社名認知度は50%以下から98%にまで向上し採用面で大きな効果をもたらしたと同書籍で記されています。

大手でもない、BtoCでもない、

そんな中小企業でのデザイン経営の成功事例があることが分かりました。

●問題提起

ここまでのように中小企業でも成功事例はあります。

しかし、ヒト、モノ、カネ、情報という中小企業のリソースを考慮すると導入が容易でないことは分かりました。さらに言えば、ボリュームゾーンである中小のBtoB企業や自社製品を持たない企業でデザイン経営の導入に成功した企業は極めて少ないことも分かりました。

デザイン経営の困難

「戦略的に有効であることは分かるけど、導入&実践が非現実的だ」

という問題を解決するために、本論文では中小BtoB企業のデザイン経営導入における要件の不足を明らかにしてきます。

~続く~

アート思考とデザイン経営

アート思考

この投稿は、デザイン思考と対比的に捉えられるアート思考について論じた部分の要約になります。

戦略デザイナー森田昌希のビジネスレビュー

中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」の要約⑥になります。

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●キーワード

デザイン経営/アート思考/デザイン思考/VUCA/両利きの経営/イノベーションのジレンマ/連続的イノベーション/破壊的イノベーション

●時代背景

VUCAやコト消費など、経営をとりまく環境が著しく変化したことにより、顧客へ提供する価値の基準が変化したことは要約②で述べました。
デザイン経営がなぜ競争力になるのか?

過去の実績や定量データをベースにした科学的なアプローチや論理的なアプローチでは、皆が同じ解にたどり着くため差別化(競争力)につながらなくなったと言われています(コモディティ化)。

計数管理

その中で注目を浴びているのがデザイン経営なんですが、

その根底にあるデザイン思考と並べて論じられるアート思考という思考プロセスがあるので簡単にご紹介します。

●アート思考とデザイン思考の違い

その違いは、主に2つあると解釈しました。

  • ユーザーとの距離感
  • 産み落とすイノベーションの種類

デザイン思考は「You&I」で、Youを観察しますが顕在ニーズを参考にしません。観察するだけで、「 I 」が潜在ニーズを仮説と検証を繰り返すことで浮き彫りにしていくプロセスです。

アート思考は「 I 」でアウトプットを生み出します。ユーザーを観察もしなければ、ユーザー側にあるニーズを考慮しません。我が道を突き進みます。論文ではユーザーとの距離感という言葉でその違いを表現しました。

アート思考


産み落とすイノベーションの種類について、

  • デザイン思考は、連続的(漸進的)イノベーション
  • アート思考は、非連続的(破壊的)イノベーションゴール

この点が異なると私は解釈しています。

(※両方とも破壊的イノベーションを生むと唱える研究もあります)

破壊的イノベーション

そして、この2つの思考プロセスは何かと対比的に語られることが多いんですね。

しかし、私は以下の視点を忘れないようにしています。それは、

  • どちら良い悪いという議論は不要
  • どちらが時代に合っているかという議論は不要

それぞれの企業に必要なイノベーションに応じて思考プロセスを採用することが重要です。もし破壊的イノベーションを求めるのであれば、そのプロセスはアート思考を選択すれば良いんです。

両利きの経営

余談ですが、連続的イノベーションを深化、非連続的イノベーションを探索と捉えると、デザイン思考とアート思考の使い分けが両利きの経営(O’Reilly Charles A.とTushman Michael L.2016)の実践につながるとも私は考えています。

●アート思考とデザイン経営

アート思考のものづくり

延岡氏は、アート思考は顧客や時代に迎合する必要はなく信念や哲学を表現するものづくりであると冒頭で論じています(「アート思考のものづくり」延岡,2021,p.22.)。

ただ、その続きとして、「顧客の経験価値を融合されることで新次元の価値へ昇華させることができる」とも言っています。

アートとアート思考の経済的な違いはここにあると私は解釈しました。

(間違っていたらすいません)

ゆえに、デザイン経営の論文にアート思考のパートを挿入しました。

ユーザーとの距離は遠いけれど、市場に受け入れられることに価値基準を置いている思考方法で、そのアウトプット自体は独自性(ブランド)の確立そのものであると考えたからです。

アート思考

デザイン経営のベースとなる思考プロセスは複数あり、

その選択肢は企業規模や扱うプロダクトによって異なることが分かってきました。

求めるゴールを明確にする。

そして、そのゴールへのプロセスを選択する。

その道順でデザイン経営の導入を進める必要がありそうです。

~続く「デザイン経営の成功事例」~

創造的な成果を出し続ける企業の組織マネジメント~面白法人カヤック~

面白法人カヤック

株式会社カヤックは、神奈川県鎌倉市に本社を置くWeb制作・企画・運営会社です。

面白法人カヤックというのは通称なのですが、「面白法人」という寒すぎる枕詞を浸透させきったのが先ず凄いですね。

深夜のノリで決めたとしても翌朝冷静になるケースだと思うのですが、深夜のノリのまま押し切ったという感じでしょうか。

何かと成果物に目を向けがちのカヤックですが、組織マネジメントの側面からアプローチした結果です。大学院(MBA)で提出した課題を、要点だけをまとめて3分で読めるボリュームに要約しました。

———-index————-

①はじめに

②面白法人カヤック

③人事面

④組織面

⑤まとめ


①はじめに

鎌倉に本社をかまえる面白法人カヤックのマネジメント手法について論じる。

直近バズった創造的な成果としては、うんこだけをテーマにした日本初のエンターテインメント施設であるうんこミュージアムや、販売開始から1週間で販売本数5万本を突破したNintendo Switch​『スーパー野田ゲーPARTY』がある。

うんこミュージアム

これらの創造的な成果を定期的に世に送り出す面白法人カヤックのマネジメント手法について調査した。

②面白法人カヤックについて

面白法人カヤックは、その独特な社風で著名である。

例えばサイコロを振って給料を決めたり、社員の似顔絵を描いた漫画名刺を使っているなど一般的な会社と比較すると尖がった文化を持つことからテレビ番組などで紹介されることも多い。

カヤックには大きく2つの事業部がある。ゲーム事業部とクリエイティブ事業部である。

クリエイティブ事業部の事業部長である阿部晶人氏にインタビューをして、継続的にクリエイティブを創造し続けるカヤックのマネジメント手法を人事面と組織面から炙り出す。

組織

③人事面

面白法人カヤックの経営理念は「つくる人を増やす」である。

カヤックの人間と名刺交換したことある方はご存じかもしれないが、全員が人事部に所属している。

これは全社員が採用権限を持っているため名刺に記載する所属部門は人事部になっている。

カヤック

商談相手であろうと協力会社であろうと「いつでも採用目線であなたを見ています」という意味で、カヤック従業員1人あたり2名まで社長面接直通権限を持っている。

「つくる人を増やす」ために人事面で非常に独特なルールを公式的に導入している。

この「つくる人を増やす」という経営理念によりクリエイティブな人材を流動的に抱え続けることができている。離職率の高さが問題になっているが、着実に「増やす」ことで「継続的に成果物を世に送り出す」ことに成功している。

ここからは阿部氏の主観になるが、応用力の高い人、変人、何か極めてる(極めたことがある)、やりたいことしかやらない、ような人を採用で重視しているとのことであった。

一般的な会社の採用基準を否定しているわけではなく、一般的な採用基準に加えて上記のような特異性を持つ人材が「継続的に成果物を出す」ことに必要なのかもしれない。

ではそのような人材をどのようにマネジメントする公式的な組織や文化があるのだろうか。

④組織

阿部氏の口から最初に出てきた言葉をそのままに書くと「ティール組織を目指しています」(※セルフマネジメント、ホールネス、存在目的)とのことであった。

イノベーション論での教えに沿うと一般的に「クリエイティブはマネジメントできない」し、そしてカヤックはクリエイターをマネジメントしようとしない。「セルフマネジメント(自主経営)」を象徴する言葉が阿部氏の口から矢継ぎ早に出てきた。

  • 基本やりたいことは上司がNG出しても勝手にやる
  • ブレストを大切にしている 皆で意見を出し合う
  • それが成功すれば会社も結果オーライ
  • 考え抜いた案を持ち寄るというよりその場の即興性を大切にする
面白法人カヤック

ただ一方で、「ホールネス(全体性の発揮)」と「組織の存在目的」を浸透させるため、全員社長合宿という名の社内研修を年に2回実施している。

その他で阿部氏の口から出てきた象徴的な言葉としては、

  • 新しい考えや技術をいち早く取り入れるスピード(古い組織はこれができないはず)
  • 面白い人を常に持っており、その人と仕事がしたいという動機付けがある
  • 面白い仕事があるから、ここで働くという動機付けがある
  • 会社のとある制度が面白いから この組織にいたいという動機付けがある
  • 鎌倉やオフィスが楽しい

非常に特徴的である。

⑤まとめ

「ティール組織が継続的にクリエイティブを創造する」という証明ができたわけではない。

しかし、面白法人カヤックはクリエイティブが自発的に生まれ続ける仕組みを意識的に構築している

このマネジメント手法は模倣困難性が高く、面白法人カヤックの競争力の源泉になっていることは火を見るよりも明らかである。

デザイン経営とイノベーション

イノベーション

この投稿は、デザイン経営の重要ワードであるイノベーションの種類を整頓し、イノベーションとデザイン経営の結節点を導く内容を要約したものです。

戦略デザイナー森田昌希のビジネスレビュー

中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」の要約⑤になります。

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デザイン経営

イノベーションという言葉は何かと便利に解釈されがちで、色んなイノベーションが散乱しています。

デザイン経営の要素であるイノベーションが、どんな種類のイノベーションなのか独自に掘り下げ、デザイン経営に通ずる結節点はどこかを論じています。


論文色を押さえきれず、読みやすく要約しきれませんでした。

実務寄りの情報を得たい方は飛ばしてもらってもOKです。

しかし、イノベーションとデザイン経営の結節点を世界一綺麗に整頓できたと思っています。手前みそですが相当面白い投稿になったと自負しています。

よろしければ最後までお読みください。10分程度で読める内容にまとめています。

●キーワード

デザイン経営/イノベーション/デザイン思考/ジョハリの窓/アート思考/イノベーションのジレンマ/戦略デザイナー

●イノベーション

デザイン経営宣言で、イノベーションは以下のように定義されています。

イノベーション
イノベーションの定義

イノベーションの本来の意味は、発明そのものではなく、発明を実用化し、その結果として社会を変えることだとされている。革新的な技術を開発するだけでイノベーションが起きるのではなく、社会のニーズを利用者視点で見極め、新しい価値に結び付けること、すなわちデザインが介在してはじめてイノベーションが実現する。

簡単に言うと、

イノベーションは発明そのものじゃなくて、デザインを介してユーザーが「欲しい!」とか「ステキ!」とか「斬新!」て感じるものに昇華させることです。

さらに、発明を伴う必要はなく、在りモノ同士の組み合わせでも良いんです。

また、物理的なモノじゃなくサービスやスキルでもOKなんです。

イノベーション

●イノベーションとデザイン思考

デザイン経営に通じるイノベーションとは、どんな種類のイノベーションなのか。イノベーションに関する先行研究を調べていると、デザイン思考との共通点が多いことが分かりました。

PFドラッカー氏の「イノベーションと企業家精神」では以下のようなことが書かれています。

イノベーションと企業家精神

「経済的な新しい価値を創造するイノベーションを起こす4つの手段のうち3つ(効用戦略、価値戦略、顧客戦略)がユーザー中心の考え方である」

(イノベーションと企業家精神,P.F.ドラッカー,1997,p.157.~172.)

この考え方自体はYou中心のマーケティングや顧客志向に引っ張られているところが強いが、デザイン思考とイノベーションが遠い存在ではないことが読み取れました。

また、有名なブルーオーシャン戦略ではこんなことが書かれています。

「ライバル企業を打ち負かすのではなく、買い手や自社にとっての価値を高め、競争のない未知の市場空間を開拓することによって競争を無意味にする」

(ブルーオーシャン戦略,キム・モボルニュ、2005、p.31.)

「買い手や自社にとっての価値を高め」はまさにYou&Iで競争を回避するという意味に解釈できます。よりデザイン思考に近いアプローチですね。

この論点では名著が山ほどあるので全てを引用できませんが、

「イノベーションはデザイン思考から生まれる」

と解釈してしまいそうな勢いです。しかし、そう単純なことでもないんです。

●デザイン思考と繋がらないイノベーション_その1

GE社イメルト氏の有名な事例です。

従来型のイノベーション創発に限界を感じ、研究所を本社から切り離しました。より市場に近い場所で、「観察と仮説と設計(デザイン)と検証」を繰り替えし、大企業でありながらも素早い意思決定でアウトプットが出せるプロジェクトを同時に80も走らせました。

本社主導は、マクロな目線でロジカルな技術発のイノベーションしか生まれない。

現場主導は、ミクロな目線でエモーショナルな市場発のイノベーションを生む。

「観察と仮説とデザインと検証」とはデザイン思考そのもので、

ミクロで市場発によるイノベーションのみがデザイン経営につながるイノベーションであるという結論を導けました。

●デザイン思考と繋がらないイノベーション_その2

厄介なことに、ユーザーイノベーションっていう種類のイノベーションまで存在していることが分かりました。

ミクロで、ユーザー起点のイノベーションという定義なので、=(イコール)デザイン思考かと思いましたが、分類してくださった先行研究を発見できたのが不幸中の幸いです。

デザイン、アート、イノベーション

「ユーザーを起点とする点では同じであるが、ユーザーイノベーションではユーザーの意識領域のなかにある課題に対する解決で、デザイン思考はユーザーの無意識領域のなかにある課題に対する解決である」

『デザイン、アート、イノベーション』,森永,2021,p.10.

ユーザーイノベーションは顧客志向やマーケティングに限りなく近く、顧客の顕在ニーズにアプローチした結果から生まれたイノベーションを指しています。

デザイン思考は、You&Iなので、Youの顕在ニーズを参考にしません。観察するだけです。(ちなみに後述するアート思考は観察さえしません。)

つまり、これをビジネス版ジョハリの窓で整頓すると以下のようになりました。

ジョハリの窓

盲点ではなく、未知の領域にアプローチするデザイン思考から起きるイノベーションが、デザイン経営の実践に繋がっていきます。

「デザイン思考とデザイン経営は別物である」という論点も多く見かけるのですが、入口と出口が遠いだけで繋がっている事実をイノベーションの先行研究から導きました。

デザイン思考とデザイン経営

●まとめ

  • YouじゃなくYou&Iで
  • マクロじゃなくミクロで
  • 技術発じゃなく市場発で
  • 盲点じゃなく未知の領域で

上記の要件を満たしつつユーザーが認識していないニーズを掘り起こすようなプロセスをデザイン思考と呼びます。

そこにあるニーズと、何かを結合したイノベーションによる成果物(製品、サービス、組織文化)がデザイン経営へのパスであると言えます。

デザイン経営

一方で、デザイン思考によるイノベーションは、連続的なイノベーションしか生まないという研究もあります。市場を根底から覆し、経済的な市場価値が最も高いとされる破壊的イノベーションはデザイン思考からは生まれないと言われています。

イノベーションのジレンマ

破壊的イノベーションは容易ではなりません。その理由は、破壊的イノベーションを組織的に創造する(再現性の問題)ことを誰も実践していないからです。

なぜ組織的に創造できないか、それはイノベーションのジレンマという有名な現象ですね。

しかし少し脱線しましたが、ここまでの思考プロセスを整頓すると以下のようになります。

デザイン思考の整理

ここまで来るとアート思考にも触れざるを得ません。次の投稿では、アート思考についての要約します。デザイン思考との違いや、紐づくイノベーションの違いを論じています。

~続く「アート思考とデザイン経営」~

~獺祭~旭酒造の競争力をデザイン経営の視点から分解

獺祭

~獺祭~旭酒造のデザイン経営

獺祭で有名な旭酒造は、マーケティングやイノベーションや地方創生の視点で論じられることが多いですよね。先行研究にも良く取り上げられています。

旭酒造のWEBサイトはこちら

大学院のケーススタディでは頻出企業でした(笑)。

本稿では、少しレイヤーをあげてデザイン経営の視点で旭酒造の競争力を分解してみました。

デザイン経営の論文要約はこちら

パーパス ⇒ デザイン経営 = ブランド × イノベーション

獺祭のブランド × 獺祭の新しい市場価値(生産と流通)に置き換え、

それぞれレビューしていきます。

要点だけをまとめて5分で読めるボリュームに要約しました。

デザイン経営の効果
デザイン経営の効果

———-index————-

①旭酒造のパーパス

②獺祭のブランド

③獺祭の新しい市場価値_生産&流通

④まとめ

——————————

①旭酒造のパーパス

『酔うため、売るための酒ではなく、味わう酒を求めて。』

旭酒造のパーパス

やはり二人称で掲げられていました。

企業にとって「売るための酒ではなく、味わう酒」であり、

お客様にとって「酔うためではなく、味わう酒」であります。

まさに共感ベース(YouだけでなくYou&I)で礎が打ち込まれています。

※私の研究では2人称はYouではなくYou&Iになりますが、3人称のWeとは区別しています

  • I    =アート思考⇒創造の手段
  • You   =顧客志向(マーケ2.0まで)⇒顕在ニーズを満たす手段
  • You&I =デザイン思考⇒潜在的問題解決の手段
  • We =社会思考(DDIなど)

②獺祭のブランド

●2割3分の純米大吟醸

獺祭

「味わう酒」を追求するとここまで磨くことになります。

つまり原価が高騰します(通常の純米大吟醸が5割)。

新しい顧客が新しい体験をするために必要なコストであるという経営判断をしたんですね。

「You&I」と言うより「I」が強め、アート思考よりでかなりのギャンブルですね(笑)。

●希少性

ブランドコントロールのためなど様々な理由はありますが卸を介さないことが希少性に繋がりました。

しかし、生産戦略の視点から疑問が残ります。1000本の需要に対し10本しか生産できないことは機会損失が大きすぎます。1000本の需要に対し999本生産したいところです。希少性と機会損失のバランスは本当に難しいですね。

●その他

  • 「杜氏の新たな雇用形態」
  • 「火入れなど他社が模倣困難な製法」
  • 「属人化させない製法」
  • 「ワインがライバル」
  • 「海外でもローカライズしない」

など常識を覆した弱小酒蔵としてメディアが取り上げ続けたことが最もブランド構築に役立ったのではないでしょうか。中小企業でも広報PRが重要な事例と思います。

中小企業のPR

③獺祭の新しい市場価値

●生産のイノベーション

杜氏の暗黙知やノウハウなど属人的な製法を可能な限り止め、計数管理による生産の見える化を実現させました。日本酒の製法におけるイノベーションですね。学術的に見ても、組織の5原則である専門性の発揮や、模倣困難性、支える組織もしっかり設計されています(VRIO)。

計数管理

●流通

・直販

決定的なイノベーションは卸を排除し酒屋への直販体制を敷いたことです。

田舎の弱小酒蔵が、並々ならぬ営業努力により、獺祭会という直販体制を構築しました。

直販

直販体制を敷く必要があった理由は、価格統制、ブランド維持、エンドユーザーの声、を重視したからだそうです。

・いきなり東京

地産地消という酒蔵と顧客にとっての当たり前を排除し、いきなり東京進出しています。地元を懐かしむ東京在住の山口の方がイノベーターとなり、アーリーアダプターを巻き込みキャズムを乗り越えています。

流通と消費行動の2つの意味でのイノベーションですね。

マーケティング

また、直販により顧客との距離感が縮まったため顧客の消費行動をダイレクトに収集することができました。

その結果、STPで新しい消費行動による市場を見つけたんですね。

具体的には、新しいターゲット(若者&女性)と新しい消費行動(洋食店で日本酒)です

女性とお酒

④まとめ

以上より、ブランドとイノベーションにより競争力を得た獺祭は大きな市場を見つけ、先行者優位による強いロイヤルティも獲得しました。知名度のない田舎の弱小酒蔵でも、デザイン経営で東京や世界へ飛び出すことができたわけです。

海外進出


ここからは補足ですが、上記までの内容をもっと学問的にまとめました。

ご興味ある方は是非お読みください。


~続き~

日本酒の市場がシュリンクを続けるなかで(環境変化)、

①をベースに②と③の強みを生かし(模倣困難な組織と体制を構築)、

競争力を高めた(マーケティング)事例と言えます。

●国内マーケティング

誰と:

獺祭会に属す既存の酒屋と

誰に:

ワインバーなど通常日本酒を置かない飲食店に

何を:

和食以外にも合う磨き率の獺祭を

どのように: 

①旭酒造の営業担当と酒屋が、地域の飲食店情報をベースに新規開拓戦略を実施することで上記ターゲットを見つけ出す。

②日本酒が好きな玄人ではなく、食事前のおつまみと一緒に少量のお酒を健康的に楽しむ方や、美味しい食事を楽しむ一般の方に獺祭が合うことを酒屋と共に店頭訪問しブランド認知度も絡めて訴求する(プッシュ)。 

③可能な範囲で社長がメディアに露出する際に、獺祭の新しい楽しみ方、つまり酒自体を味わうのではなく食事を楽しむ(モノ消費ではなくコト消費)ことをパブリシティに載せる(プル)。 

④成功事例や導入事例を他地域で横展開させる。

効果:

以上により、新しい市場へのTPを作り、売上数量を増加させ、酒屋との関係性強化を図ることで代理店の定着率と代理店のレベルの高さを担保した。

そして、社長の想い「美味しいお酒を新しいお客様に届ける」ことを実現させた(アンゾフ市場開拓)。

●海外マーケティング

誰に:

海外の展示会で新しく接する海外代理店に

何を:

ローカライズしない日本らしい純米大吟醸である獺祭を

どのように(展示会では):

①純米大吟醸の価値を訴求する。

②酒自体を楽しむのではなく、食事と楽しむコト消費型の日本酒であることを訴求する。

どのように(契約後は):

①日本で実施している勉強会や営業担当者と酒屋での密なコミュニケーションにより、商品情報や知識やロイヤルティなど販売店の品質を国内同様に担保する。

②一定のレベルを担保した代理店と限定的に取引を行う。

効果:

以上により、海外という新市場を開拓することで、売上数量を増加させ代理店との関係性を強化した。

また、日本の獺祭会のような組織的な販売チャネルを海外でももつことで、獺祭というブランドを海外でも国内と同様に担保した。

そして、社長の想い「日本らしい香りと味の美味しいお酒を海外のお客様にも届ける」ことを実現させた(アンゾフ市場開拓)。

最後は何だか診断士の筆記試験の解答のようになってしまいましたね(笑)。

おわり

デザイン思考~デザイン経営~

デザイン思考

この投稿は、「デザイン思考とデザイン経営」についての要約です。

戦略デザイナー森田昌希のビジネスレビュー

中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」の要約④になります。

森田昌希プロフィールついてはこちら

●キーワード

デザイン経営/デザイン思考/デザインシンキング/共感/デザインドリブンイノベーション/戦略デザイナー

●デザイン思考は単なる手段

いきなり超重要なポイントです!

デザイン思考とは先天的な才能ではありません。

また、デザインセンスを持つ人だけが体得できる専門スキルでもありません。

デザイン思考は、全ての人が後天的に体得できる思考方法(単なる手段)に過ぎないんです。

デザインドゥーイング ⇒ 先天的なセンスが影響

デザインシンキング ⇒ 後天的な汎用スキル

●共感から始まるデザイン思考

デザイン思考は、ユーザーを観察し、ユーザーに共感し、ユーザーも気づいていない潜在的な課題に目を向けます。

デザイン思考

そして、課題と技術を結び付けたアウトプット(プロット)を出すところから始まり、

共感とアウトプットをアジャイル的に反復するのがデザイン思考です。

なので ”考え方” というより ”手段” に近いんですね。

起点がフレームワークや過去の実績や科学的根拠や機能的価値ではなく、

デザイン思考の起点はユーザーへの共感にあります

●ユーザー目線

良品計画の金井政明会長は、日経ビジネス(2019年2月20日号)の記事で次のように語っています。

無印良品のデザイン経営

「企業は天動説になってしまいます。自分の会社から世の中を見てしまいます。世間は自分たちの会社や商品を分かっていると思い込みたいし、思い込みます。」

ユーザー目線を企業が持つための(天動説を地動説に置き換えるための)機能の必要性を説いていらっしゃるんですね。

社内のボードメンバーが下すマーケティングや顧客志向による意思決定では、天動説(既存の尺度)の枠組みから出ることは難しい。

なので良品計画はアドバイザリーボードを置き、天動説に偏った意思決定を排除できる体制を整えているようです。

①デザイン思考を持たないボードメンバーによる意思決定からイノベーションは起きない

②ボードメンバーから降りてくるロジカルな意思決定による制約条件なかで、事業部によるデザインの意思決定からイノベーションは起きない

●デザイン思考による経営の意思決定

良品計画のように、デザイン思考による意思決定が事業部ではなく経営層にあるべきという先行研究をご紹介します。

TimBrown氏は、

今やデザインは思考プロセスとして上流に移りつつあるのだ

(Tim Brown(2009)CHANGE BY DESIGN、(邦訳 千葉敏生訳(2010)『デザイン思考は世界を変える』早川書房.p.18))

と著書で述べています。

事業部にあったプロダクトデザインという組織の機能から、デザイン思考による意思決定機関としてレイヤーが上がって重要度が高くなっています。

その理由は、デザイン思考によるデザイン経営が独自性(ブランド)と新しい市場価値(イノベーション)を創造し競争力の源泉になることが分かってきたからなんですね

デザインに携わる方にしてみれば「遅っ」と思われるでしょう(笑)。そもそもデザイン経営は過去数十年に言葉をかえて提唱されてきた概念でもあります。デザイン経営の歴史についてはネットを調べれば情報がたくさんあるので本稿では割愛します。

●デザインドリブンイノベーション

デザイン思考がイノベーションにつながった事例としてニンテンドーwiiの先行研究を紹介します。

『デザインドリブンイノベーション(以下DDI)』(ベルガンティ,2016)で、

枯れた技術に意味を付与する意味の価値、つまり“ゲームを楽しむ”から“運動する”価値転換(バリュートランスフォーメーション)により新しい市場を創造したイノベーションであると言っています。

ただし、起点を同じユーザーとしているが、

ユーザーの中でもYou(2人称)かPeople(3人称)かで少し異なると言われています。

森永氏は自著でデザイン思考とDDIとアート思考の起点について整理している(『デザイン、アート、イノベーション』同文館出版,2021)。

各概念の守備範囲の違い

さらに、「DDIは3人称のPeopleに注目した取り組みであり社会的に既に共有された意味を革新することで新しい価値を生む(中略)マクロな意味に注意が向く」(森永,2021,p.157.)とも言っています。

簡単な言葉に置き換えると、

①2人称か3人称か

②マクロかミクロか

という違いはあるものの重要なことは、

デザイン思考もDDIも、経営戦略の上流にあることがイノベーション視点からも捉えることができる

ということです。

●まとめ

デザイン思考とは、単なる手段やプロセスにしか過ぎない。デザイン思考に似た手段やプロセスは他にもあり、どうやらイノベーションの出発点になっている。

従って、経営の意思決定と直接的に関わる必要がある。

デザイン思考とイノベーションが切っても切り離せない関係にあることを次の投稿で要約します。

私のビジネスレビュー「中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」では、並んで論じられるアート思考デザインドリブンイノベーションなどと比較しながらデザイン思考を論じています。

次の投稿では、イノベーションについての研究結果を要約していきます。

~続く「デザイン経営とイノベーション」~

企業のパーパス~デザイン経営の起点~

パーパス経営

この投稿は、「企業のパーパスとデザイン経営」についての要約です。

戦略デザイナー森田昌希のビジネスレビュー

中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」の要約③になります。

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●キーワード

デザイン経営/デザイン思考/パーパス/2人称/西川株式会社/マーケティング2.0/Better by Desing/考えのデザイン/ダイソン/戦略デザイナー


●デザイン経営とパーパスの先行研究

デザイン経営を導入する方法論についての先行研究に触れておきますね。

デザイン経営宣言政策策定委員会の永井さん(2021)によると、

これからのデザイン経営

デザイン経営とは、企業のパーパスを定め、それを起点とした組織文化を構築し、新たな価値を創造し続ける経営手法です

(永井一史『これからのデザイン経営』クロスメディアパブリッシング,p.4.)

また、

パーパスとは、デザイン経営の中心であり組織の指針であるとされているものであり、パーパスを見定め、それを起点とした組織文化を構築し、新たな価値を創造し続ける手法、それがデザイン経営なのです

(永井一史『これからのデザイン経営』クロスメディアパブリッシング,p.65.)

パーパス経営
パーパスとデザイン経営概念図(出所:永井(2021)p.64.より引用)

デザイン経営とパーパスについての先行研究を片っ端から調べましたが、

最もシンプルで分かり易い解説だったのが永井さんの著書でした。

●パーパスって?

ではビジョンや理念とパーパスは何が異なるのでしょうか?

ビジョンや理念は、企業のあるべき姿を企業の目線(1人称)で言語化したもの。

パーパスは、企業が社会に存在する理由や意義を企業と顧客の目線(2人称)で言語化したもの。

共感

この2人称の概念が後述するデザイン思考そのものであり、デザイン経営の源泉であると考えています。

●事例紹介~西川株式会社~

デザイン思考により独自性(ブランド)と新しい市場価値(イノベーション)が創造される一連の活動がパーパス起点になっている事例を紹介します。

西川株式会社

老舗の寝具メーカー西川株式会社は2019年の再統合を機に「よく眠り、よく生きる」というパーパスを掲げました

“寝具を製造して販売する企業”から、外部と提携しながら良質な睡眠を提供して人々の健康を支える “睡眠ソリューションの企業”へと変貌しました。

京都で400年以上の歴史を持つ老舗企業のリブランディングから、新しい市場価値を創造するイノベーションへと繋がったこの成功事例はパーパスが起点となったデザイン経営であることが分かります。

ここで重要なのは、パーパスとは1人称ではなく2人称から成り立つということです。

では、マーケティング2.0などに代表される顧客志向とデザイン経営におけるパーパスの違いってなに?

これを考えるうえで外せないのがデザイン思考というアプローチ方法です。

●デザイン思考

Better by Desingという言葉をご存じですか?

デザイン思考

デザインとは成果物を指すのではなく、

方法論であるとの考え方です。

この方法論がデザイン経営のベースにある

デザイン思考です。

製品は「カタチのデザイン」で、その製品がなぜ必要なのかは「考えのデザイン」とすると、これは製品だけでなく組織や文化も参照します。

どうやって製品をお届けするのか、どうやって製品を製造するのか、

なぜこの製品を創るのか、なぜこの組織が存在しているのか、

ブランドや企業が存在する意義を考えた結果の成果物になります。

パーパス経営

パーパスを起点として、考え(組織文化)とカタチ(価値創造)の両輪をデザイン思考というエンジンで回していきます。

具体的には、アジャイル型の開発スタイルでプロットを多く制作し、考えのデザインとカタチのデザインを行ったりきたりすることが重要と言えるのではないでしょうか。

その代表的なエピソードがダイソンです。

ダイソン
アート思考のものづくり

延岡さん(2015)によると

「筆者が調べた時点で英国本社の650人のエンジニアのうち、約400人がデザインエンジニアであった」

(延岡健太郎(2021)『アート思考のものづくり』日本経済新聞出版、p.86.)

一世風靡した吸引力の衰えない掃除機を世に送り出す前に制作したプロット数は5,000台を超えていると言われています。

“吸引力”という機能以外も追求し続けるBetter by Desingなデザイン思考が、

独自性と新しい市場価値を創造したデザイン経営の成功事例です。


●まとめ_デザイン経営とパーパス

デザイン経営は、その起点となるパーパスを抽出&具体化するところからスタートします。

パーパス経営

デザイン思考により、ステークホルダーとの共感をベースに、

①内で文化を醸成

②外で価値を創造

をアジャイル方式でブラッシュアップしていきます。パーパスが言語化されていくでしょう。

では、全てのベースとなるデザイン思考とは?

私のビジネスレビュー

「中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」では、

並んで論じられるアート思考デザインドリブンイノベーションなどと比較しながらデザイン思考を論じています。次の投稿では、デザイン思考についての研究結果を要約していきます。

~続く「デザイン思考とデザイン経営」~

なぜデザイン経営が競争力の源泉になるのか

差別化と競争力
デザイン経営と差別化

戦略デザイナー森田昌希のビジネスレビュー

中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」の要約②になります。

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この投稿では「デザイン経営が競争力になる理由」についての要約です。

●キーワード

デザイン経営/デザイン思考/競争力/VUCA/ロジカルシンキング/コモディティ化/独自性/新しい市場価値/コト消費/付加価値/情緒的価値/戦略デザイナー

VUCA

最近よく聞きますよね、VUCA

Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)

これらの頭文字を並べた言葉で、元はアメリカの軍事用語です。

現在は今の時代を表す言葉として用いられビジネスシーンでのホットワードで、ビジネスを取り巻く環境変化が極めて不安定であることを端的に表しています。

VUCA
VUCA

経営の意思決定

これまでの経営は、意思決定が論理的に導かれてきました。

ロジカル思考
ロジカル思考

過去の成功体験や成功事例から科学的に未来を予測することで合理的な解(意思決定)を求めてきたし、それで結果が出てきたことも事実です。

しかし、過去のデータやノウハウを可能な限り標準化し、数字に裏打ちされた論理的な思考で求める解はVUCAの時代では切り札にならないと言われています。

論文で「※個人の感想です」は通用しませんので、しっかりと「誰が?」を明示しておきます。

デザイン思考の道具箱
奥出直人(2013)『デザイン思考の道具箱』早川書房

奥出(2013)さんは、

このような変化のなかで経営において利益あるいは利潤を生みだすものとされていた技術や知識が、もはや切り札にならない」(奥出,2013,p.44.)と言っています。

世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか
山口周(2017)『世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか? 』 光文社新書

山口(2017)さんは、

複雑化・不安定化した現環境で論理的思考による意思決定による戦いは困難を極める」(山口、2017)と言っています。

日経ビジネス
株式会社日経BP「日経ビジネス」(2021年5月

A・T・カーニー日本の梅沢高明会長(2021)は、

数字に裏打ちされた論理的な思考だけでは企業は新たな製品やサービス開発に対応できなくなった」(日経ビジネス,2021,5/30号)と言っています。

私の個人的な感想ではないことはご理解いただけましたでしょうか(笑)

デザイン経営の効果
デザイン経営の効果

このような環境下において、

デザイン経営による独自性(ブランド)と新しい市場価値(イノベーション)は競争力の源泉となるとデザイン経営宣言に書かれています。

当然これは中小企業に限ることではなくグローバルな大企業にも言えることです。

コト消費

もう一つの要因として、

モノを消費する時代からコトを消費する時代へ転換したことが大きいと言われています。

コト消費
コト消費

これは単なる消費行動の変化だけでなく、

企業が差別化するベクトルも一緒に変化したと言われています。

こちらも個人の感想ではありません(笑)

経営とデザインのかけ算
尾崎美穂(2020)『経営とデザインのかけ算』合同フォレスト

尾崎さんは自著のなかで(尾崎,2020)

「技術力の高さを伝えるだけでは消費者の購買意欲は湧きませんし、他社との差別化も難しくなります。商品やサービスに消費者が求める付加価値を与えて“選びたくなる理由”を作り出す必要があります」(尾崎,2020,p.21.)と言っています。

意思決定の変化“選びたくなる理由”が機能的価値から情緒的価値にシフトしたことは、

論理的思考で導かれた企業の意思決定と市場が結びつかなくなったと私も考えています。

デザイン思考から生まれるもの

「機能的な差別化はマネされやすい」

デザイン思考

この一言に全てが込められていると思いませんか?

機能的な尖がりは、独自性(ブランド)や新しい市場価値(イノベーション)にならない時代になりました。

A:5合のお米を40分でふっくら炊き上げる高機能炊飯器
B:あなたのキッチン空間に溶け込むバルミューダのデザイン炊飯器

Aの場合、

「じゃ弊社は、6合を35分で炊き上げる炊飯器を開発しよう!」

と目標設定が容易になります。

「目標設定が容易=意思決定しやすい」

意思決定

経営に関わる業務に就いたことがあると痛感しませんか?

定量的な判断材料で意思決定することが体の隅まで染み渡っているんです。

この意思決定は、競合が参入しやすい市場を形成していることに繋がるため、

短期的な価値になってしまいます。

一方Bの場合、

「バルミューダのデザインをパクろう」

とはなりづらいですよね。※非常識なメーカーを除く

デザイン思考によるデザイン経営

論理的意思決定経営→機能的な成果物→機能性優位による独自性や新市場価値→短期的な競争力


デザイン思考によるデザイン経営→情緒的な成果物→情緒的優位による独自性や新市場価値→長期的な競争力

デザイン思考から生まれるもの

デザイン経営が競争力になる理由は、

デザイン思考によるブランド創造やイノベーションの創出が模倣困難な競争力になるからです。

デザイン経営の競争力

不安定な経営環境や消費者の行動の変化のなか、

これまでの科学的アプローチによる効率的な経営手法やコスト削減による経営改善が通用しづらくなりました。

その視点にいち早く気付いた経営者は早くからデザイン経営を実践しています。

では、どうやればデザイン経営を導入できるのか。

私のビジネスレビュー

「中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」では、

先行研究をベースに方法論を論じています。

次の投稿では、その方法論について分かりやすく要約していきます。

~続く「企業の存在意義(パーパス)の設定」~